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崇拝型⑤

『私を見つけてくれた。──わたしのかみさま。あなたがいないと、私はもう生きていけない。すごく、幸せ……』 「まーたそのゲームしてんのかよ」  次の日の朝。いつもと同じ呆れ顔の翔が、前から画面をのぞき込む。以前の続きをプレイしていたのだが、なかなか地味な女の子からの執着というものは良い。仲良くなろうと声をかけた主人公を神格化し、依存する。自分以外の友人がいる主人公への焦りが、彼女を狂わせるのだ。その重い愛情にぞくぞくしてしまう。 「女の子可愛いからいいだろ」 「全員ヤバいんだろ」 「ヤバいからいいんだわ」  そんな馬鹿らしい応酬をしていれば、登校してきた文月くんが隣の席へとやって来た。 「あ、おはよー」 「はよ。……えーと、名前なんだっけ」 「あ……ふ、文月……です」 「文月な。俺は一条、よろしく」  挨拶を交わした途端、チャイムが鳴った。  もうホームルームが始まってしまう。焦った様子で翔は会話もそこそこにその場を去った。慌てるものだから躓きかけてすらいて。慌ただしいな。密かに笑いを漏らすと、「田山くんって」と、ぽつりと文月くんが声を発した。 「……あの派手な子と話してるとき、少し感じが違う、よね」 「派手な……あはは、まあ派手と言えば派手か」  翔のことだろう。確かにぱっと見は、近寄りがたいほどに陽キャの文字を体現している。その実話してみると、案外気を遣ってくれるとっつきやすい相手なのだ。俺も、幼馴染でなければここまで仲良くはなれなかっただろう。だからこそ、翔と接するときは少し荒っぽくなってしまうのだけれど。 「あいつ、幼馴染でさ。遠慮しない仲っていうか……話してると口調とか乱暴になっちゃうんだよね。気をつけてるんだけどさ」 「……そっか。仲、いいんだね」  声の色が、ほんの少しだけ変わった、ような気がした。  結局、その日は。疑問を追求もできないまま──いつも通り一日を過ごしたのだった。

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