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妄想型⑩

 前のように、友人の話を遮って連れ出された廊下。彼が俺を連れてくる場所は、人気のない薄暗いここになっていた。周りに聞かれたくない、真剣な話をするには丁度いいだろう。 「……あの、参宮くん」 「下の名前」 「……れ、怜央くん。ちょっと話をしよう」 「なんだよ、改まって。真剣な顔もかわいーけどな」 「かわ……」  息をするように飛び出す甘い言葉に、一瞬思考が停止する。しかし無理やり頭を回転させて、なんとか言うべきことを思い出した。 「……あのさ。俺と怜央くんの関係って、なに?」 「は? 何言ってんだよ」  面食らったように目を少し見開いてから。呆れたように眉を下げ、笑みを浮かべる。  ああ、なんだ。やっぱり俺の思い過ごしだったのだ──そう、安堵した瞬間だった。 「恋人だろ」  空気が凍る。まさかが、的中してしまった。その表情はいつもと同じ様子で、変なことを言っているという自覚もないようだ。 「……あのね、怜央くん」  ひとつ、息を吸って。彼の瞳を、まっすぐ見据える。  今回に関しては自分にも悪い点はあった。好意が嬉しいとはいえ、しっかりと断る姿勢を見せるべきだったのだ。 「…………俺たちは、友だちだよ。恋人じゃない」 「っはは、なんだよその冗談」  動揺する様子は微塵も見せず、からり、笑う。  本気だと受け取ってくれない。のれんに腕を押しているように、まるで手応えがなかった。歯噛みする俺に構わず、彼は微笑みを湛えたまま。また、口を開く。 「言っただろ。拒絶しないって」 「……しないけど、今まで通りの関係でいようって言ったんだ。はっきり言わなかった俺も悪いけれど、付き合うことはできないよ」 「……ふは、マジでんだそれ。俺たち、付き合うことになっただろ」  話が通じない。同じ言葉を使っているのにまるで異星人と話している感覚に、いっそ恐怖すら覚える。  もしかしてこの人──自分にとって都合のいいことしか聞かないし、思い込みが強いタイプか。 『アンタの彼女はアタシなんだから、それくらい可愛いもんだと思ってあげるわ』  ツンデレ少女の姿が脳裏に蘇る。こんなところまでゲームと同じじゃなくていい!  心の中で大声を張り上げていると、不意に彼が距離を詰める。一歩下がれば、その分を埋めるように。あ、と思ったときには背中に壁が当たっていた。ひやりとした壁は身を震わせて。静かな瞳が俺を見下ろす。 「なあ。わからせてやらないとダメか?」  耳元で低い声が囁く。同い年なのに妖艶な色を浮かべるそれ。腰がぞくりと震えそうになる。  待ってくれ。やんぱらだって全年齢対象だぞ。現実がゲームを超えるな。汗がたら、と流れる。話せばわかると笑って翔の提案を断った自分を張り倒したい。  身動ぎをしたとき、からんとポケットから携帯が落ちる。液晶が薄明かりを灯した。 『先輩』  落ちたスマホの画面が映していたのは、メッセージの通知。二階堂くんからのものだった。 『また、ご都合が合えば出かけませんか。いい喫茶店を見つけました』  はっと息を飲む。思いついたのだ。現状を変えるための一手を。ごめん、二階堂くん。今はこの手しか思いつかないのだ。 「おれっ恋人いるから!!」 「……は?」

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