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監視型③

「そっち行ってもいい? 疲れちゃってさあ」 「ああ、それは全然──」  前に座りたいらしい。机の横を通りがかった彼が、バランスを僅かに崩して倒れ込む。  がしゃん。  大きな音を立てて、筆箱が下に落ちる。俺の机を掴み、なんとか倒れはしなかったようだ。 「うわ、ごめんごめんごめん!! なんもないとこでこけちゃった!」 「ああいや大丈夫です!」  慌てて散らばった文具を掻き集める。遠くの方へも滑って行ってしまったようで、彼はあちこち動いて拾ってくれた。普段からもう少し整理しておけばよかった。こういうときに物が多いと困るのだ。 「ほんとごめん……そっちにも落ちてる?」 「あ、ありがとうございます」  ある程度いっぱいになった筆箱を渡される。下を見ても落ちているものはない、おそらくこれで全部だろう。何も無いところで躓いたところを見るに、おっちょこちょいなタイプなのだろうか。 「……って、あー……もしかして帰るところだった?」  腰を落ち着けるやいなや──気がついたように、彼が口を開く。 「えーと、まあ……やることも終わったから、そろそろ出ようかとは」 「一緒に帰ろーよ。オレ、今日ひとりで寂しく帰るしかないの」  お願い、と可愛こぶるように小首を傾げる。……掴みどころのないキャラをしている人だ。しかし、今日はゲームセンターに寄ろうとしていた。今日から登場予定のゲームセンター限定のグッズがあるか確認したかったのだ。共に帰ることは難しいだろう。 「俺、今日はゲーセン寄ろうと思ってて」 「いいじゃん。オレも行く」  緩く、口の端をあげる。どこか飄々としたその独特なオーラに流されるまま──俺たちは学校を後にし、ゲームセンターへの道を進んで行った。  暗くなり始めた道をふたりで歩く。初対面だが、気まずいことはなく──共通の趣味が話を盛り上げてくれた。 「やんぱら、誰が好き?」  投げられた質問に、熟考する。 「難しいすね……崇拝してくるタイプの子も好きだし、尽くしてくれる子も可愛いし……選べないな」  ……実際に、現実で同じタイプと関わることになったのだが。それはそれ、これはこれだ。あくまで現実とゲームの好みは別。  現実でヤンデレの子とともに骨を埋められる覚悟と甲斐性は俺にはない。ここ最近でそれを痛感した。 「へえ。オレはー……わりと主人公が好みなんだよね」  彼の言葉に、ぱちくりと目を瞬く。好きなキャラが主人公。……全く好みの選択肢には入れていなかった人物だ。 「主人公? 珍しいですね」 「でしょ。もちろんヤンデレの女の子もすげー好きだよ? でもどんなヤバい子が相手でも、絶対諦めないとこ? シビれるね」  なるほど。言われると、確かに納得する。メタ的な視点にはなってしまうが、どんなヤンデレが来ても足掻くその姿は同じ男として、そして同じヤンデレに関わるものとして見習いたいものがある。 「キャラデザは出てないけど、もしあるとしたら──うおっ!」  また躓いて、言葉が途切れる。転けはしなかったが──バツの悪そうな顔で、苦笑いをした。 「まあ、オレみたいなやつとは程遠いだろうね。普通だったら近づけもしなそうだ」 「……大丈夫すか」 「全然へーき。慣れたもんだよ」  またピースをする。たぶん、自慢することではないと思う。見ていてこちらがドキドキしてしまう。いつかドジが祟って大怪我をしそうで。  転ばなかったことに安堵しつつ──前を見て、そこがゲームセンターの前であることに気がついたのだった。

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