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第3章 最悪な出会い3

 昼ご飯を食べ終えたおれたちは文化祭を楽しむ人たちの波をかき分け、図書館へ向かった。  図書館の受付にはスタンプラリーが設置され、テーブルには図書委員や司書の人が作った栞やブックカバー、書籍をモチーフにしたフラワーアレジメントや押し花のイラストが売られている。  文化祭のにぎやかさに疲れた人が「秋にオススメ」と紹介されている本や棚に並んだ書籍を手にデスクで読書をしている。  図書委員の子どもたちが「七匹の子やぎ」の人形劇を行っている。物語はちょうどオオカミが子やぎたちを次々と捕まえて丸飲みにしているところだ。  生徒の弟や妹、親戚や高校の近くにある幼稚園や保育園から遊びに来た子どもたちが熱中し、保護者や付き添いの先生が彼らを見守っている。  メガネを掛けたおとなしそうな少女が控えめに「この本、返してきます」と受付をしている女性司書に声を掛け、本の山を運んだ。  茶髪をひとつ結びにしている女性が立ち上がる。ターコイズブルーのワイシャツに白のスラックスを穿いていて、清楚な印象だ。 「お願いね」と澄んだ声で言って口角を上げる。彼女がこっちへ近づいてくる。 「お疲れ様です、(ささ)()さん」 「お疲れ様です、朝霧さん」 「こちらが以前話した桐生です」  瞬が「しっかりやれよ」と目配せする。 「初めまして司書の笹野です」と笹野さんは穏やかな笑みを浮かべた。 「初めまして、桐生と申します。本日はお忙しいところ、見学の時間を設けていただき恐縮です」  会釈をすれば腰に手をあてた瞬が自慢げな顔をする。 「どうだ、笹野さん。本物は写真以上にかっこいいだろ?」 「ええ、目の保養になりそうです。子どもたちも大喜びして図書館の回転率が上がるかも」  恥ずかしさや戸惑いを覚え、頭の後ろを掻いた。 「薫、笹野さんはオメガだ。アルファの旦那がいて、ベータの子どもたちのお母さんだ。三人息子がいる」 「そうなんです、男の子が三人いると大変でしょ。おれにも兄が三人いて、母が『育てるのに苦労したわ』と、よくぼやいてますよ」  おれたちの話を聞いていた笹野さんが微笑んだ。 「やんちゃな兄弟だと、やはり苦労しますね。桐生さん、今日は東京からご足労いただき、ありがとうございます。本日は見学ということなので私が担当案内を担当させていただきます。少々お待ちくださいね。鈴木くーん」 「はーい」  野太い声がしたかと思うと、バックの事務所から恰幅のいいスキンヘッドをした強面のおじさんが出てくる。顔に切り傷がある。失礼にあたるが、司書というよりヤのつく人のほうがピッタリな容貌だ。 「こちら図書館を見学にいらっしゃった桐生さん。桐生さん、こちら今年から司書となった……」 「押忍! 桐生さん、鈴木と申します。よろしくお願いします」  突然、九十度お辞儀する彼に、やはり高校時代はヤンキーや不良としてバイクを乗り回していたのだろうか? なんて、ひやひやしてしまう。 「鈴木くん、そこは『お初にお目にかかります』とか『初めまして』でいいんだよ。普通に『こんにちは』でもいいし……」 「す、すんません」と鈴木くんは頭を上げたかと思うと、笹野さんや俺にペコペコ頭を下げた。 「大丈夫ですよ。若いときは失敗することもよくあります。お気になさらず」 「は、はい!」と彼は背を正す。 「お気遣いいただき、ありがとうございます。よかったね、鈴木くん。それじゃ、ちょっと受付をお願いね」 「任せてください」  彼は席に着くと軽快にキーボードを打ち始めた。 「それでは、こちらへどうぞ」  笹野さんの後を着いていく。  瞬は、志乃さんや花音ちゃんへの土産だろうか? 花で作られた絵をじっと眺めていた。  三十分後、笹野さんの説明つきの図書館見学が終わった。 「――以上です。何か質問はございますか?」 「私立とはいえ司書のいる高校の図書館って珍しいですよね。どうして、この学校には司書の方が在中しているんですか?」 「二年以内に北条高校が中高一貫校になるからです。先生方も中学と高校の授業で図書館の資料を利用する機会が増えると想定し、昨年度から司書を置くことにしました。デジタルでの授業を行っていますが、やはり視力低下やドライアイや端末で遊び始めてしまい授業に集中できない生徒がいること、家でのWi-Fi環境によって勉強ができないといった問題もあるため完全デジタルでの授業は行われていません。子どもたちや先生方でも、『やはり紙がいい』という人が後を絶たないので司書増員に力を入れています」 「そうなんですね、ありがとうございます。もうひとつ、よろしいですか?」 「はい、なんでも気になったことは、お訊きください」 「恐縮です。私は実習の経験はがあり司書の資格は持っていますが、図書館で働いたことはない未経験です。いくら大学時代の友人である事務員の朝霧の勧めがあったからといって、このような人間では、即戦力にならないのではないでしょうか?」  笹野さんは人差し指をあごにあて、「んー……」と何かを考えるような仕草をした。  そこでおれは、はっとする。面接でもないのに面接後の企業質問をしていること、失礼なことを聞いてしまったと気づき、顔面蒼白。 「桐生さん」

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