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第3章 最悪な出会い7
「高校は義務教育の場ではない。今日のできごとで、おまえたちに何かしらの処分が下るだろう」
すると黒いジャージの自販機並みに巨大な威圧感のある女性と白い道着を着た生徒たちがやってくる。
「それじゃ職員室まで来てもらおうかねぇ」
女性たちは駄々をこねる子どもを相手にする母親のように女子生徒たちを連行していった。
「以上、女子柔道部のパフォーマンスでした」
北条高校と文字の入ったジャージを着たマネージャーの女子生徒が頭を下げていく。
すると子どもたちは拍手をし、大人たちも「なるほど、これが柔道部のパレードね」「ああ、柔道部がパレードってなんだと思ったがこういうことだったんだな」と納得した様子で、その場を離れていjy。
なんだ、これは……嵐か、台風か? と戸惑っていれば「おい、そこのぼうっと突っ立ってるやつ」とジャージ男に声を掛けられた。
初対面の相手に対して「おい」だなんて礼儀のなってないやつだなと眉をひそめる。それでもピンチを救われたのは事実だからと頭を下げる。
「先ほどは助けていただき――」
「あんた、でしゃばりだな」
今度こそ、おれの身体は石のように固まった。
「で、でしゃばり?」
「そうだ」
男は眉間にしわを寄せ、軽蔑したような眼差しで見下ろしてくる。
「大人の上級オメガだろ? オメガのフェロモンを利用してベータの男どもを黙らせ、戦意喪失を狙った。甘ったるい匂いがプンプンする」
なんだバレていたのかと目線をそらし、「そうですが何か問題が?」と答える。
子どものうちはアルファに襲われることの多いオメガも大人になってくれば状況が変わる。
上級アルファがフェロモンを発して自分と同じアルファや敵となるベータを牽制し、オメガを守ることができるように、上級オメガはフェロモンを発してアルファやベータの戦意喪失やオメガ同士の番の取り合いを阻止できるのだ(あくまでも発情期じゃないとき限定だが……)。
「はっきり言って迷惑だ。二度とするな」
「なんですと?」
頭ごなしに言われて、おれは思わず声を張り上げた。
「武術の達人や実践に富んでいる警察や自衛隊員だったら、その作戦もうなずける。オメガは身体の華奢な者も多いが武道を習っている者は、ちゃんと筋肉がついている。だが、あんたの身体は違う。その細腕で何ができる?」
「『何ができる』だと? 現にアルファとベータの攻撃を止めてみせただろう! あのアルファの少女たちは嗜 虐 趣味で、おまえのような上級アルファの教師にも歯向かうやつだから止められなかったんだ。それでもおれは、おれなりの方法で、そこの少年を守りたかった。やり方は間違っていたかもしれない。それは謝まる。だがな、あんたの登場を待っていたら彼は、さらにひどいめにあっていたかもしれない。ここから連れ出され、べつの場所へ移されていたかもしれないんだ。それをみすみす見逃せと言うのか!?」
頭に血が上り、敬語で話すのも忘れてジャージ男に意見を申し立てる。
すると男は、おっかなびっくりした顔をして口をへの字に曲げた。
「お、俺は、べつにそういうことを言ってるわけでは……」
「だったら、なんだ? 有無も言わさずに全否定されれば、こっちだって、おもしろくないに決まっているだろう! あんたの言っていることは横暴だ……!」
「あ、あの……」
か細く弱々しい声がして、おれは口を閉ざした。
丸メガネを掛けた少年は涙を指先で拭いながら、こちらに頭を下げてきた。
「楠先生、お兄さん、ありがとうございます。本当に助かりました」
ほっとしたような笑みを浮かべてジャージ男は少年の肩を叩いた。
「気にするな。大したことはできなかったからな。だが、これで少しはおまえも溜 飲 が下がったか? 根本的に解決できなくて、すまない」
人を見下しているようなジャージ男の口から「すまない」などという言葉が、すんなり出てぉたことに面食らう。
一方、壁際で身を震わせていた少年は、ジャージ男を信頼しているのか安心しきった笑みを浮かべた。
「いいんです。オメガだからって、ずっと、いやな思いをしてきました。アルファである両親には理解してもらえず、小・中といじめられてきたんです。だからアルファである楠先生が、ただ話を聞いてくれただけでも、すごくうれしかった。ちゃんと先生は約束を守ってくれました。それだけで……充分です」
ジャージ男は「いいや、これで終わらせない」と眼光鋭く、さっきの女子生徒たちが連れて行かれた方角を睨んだ。「強者は弱者を守るためにある。強者が弱者を痛めつけていい理由がないように、アルファがオメガを力でねじ伏せていいわけがない。彼女たちには相応の罰を受けさせる。改善せずに悪行を繰り返すようなら退学なども視野に入れてもらえるよう、担任や校長にも話す。そして彼女たちの両親とも、きっちりこちらで話し合うつもりだ」
「先生……でも、彼女たちとわかり合えることはできません……」
ひどく落ち込んだ様子で少年は顔をうつむかせた。
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