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第3章 最悪な出会い9
きれいにお辞儀をする彼を前にして思わずビックリする。ちゃんと大人の態度もとれるのだなと年下の者に対して感心する意味と、あまりにも変わり身が早いやつで呆れてしまう二重の意味でだ。
まばたきをしていれば「おーい!」と瞬が、こちらに手を振り、走ってくる姿が目に飛び込んだ。
「瞬、いくらなんでも帰って来るのが遅くないか?」
「いやー、悪いな、薫。迷子の子どもを見てたんだ。保護者が来るのを待っていたら遅くなった」
事務所に迷子が預けられていたから、警備員がふたりそろってこの場にやってきたのかと腑 に落ちる。
「おお、楠先生じゃないか。茶道部のほうは、どうした?」
「顧問と部長に任せてきました。生徒から『なんかヤバそうな話をしている人がいる』とタレコミがあったんで見回りをしてたんですよ。ワイシャツでは何かあったときに対応しづらいのでジャージに着替えました」
「ああ、この間言ってたアルファの少女ふたりによるオメガの男子生徒へのセクハラといじめか」
「そうです。外部の者を連れてきて彼をリンチしようと――」
なるほど、普段からジャージを着ているわけではないのだなと思いながら、彼らの話を黙って聞いていた。
横から眉を八の字にした笹野さんに「桐生さん、お怪我はありませんか?」と訊かれる。
「いえ、大丈夫ですよ」と答えたら、「何を言ってるんですか。腕のところを怪我しているでしょう」と目をつり上げた楠先生に言われてしまう。
あっと声をあげ、腕を見る。爪の食い込んだ跡や引っかかれて血が滲んでいる部分があった。
「これくらい平気です。水で洗っておけば問題ありません」
「いいえ、駄目です。保健室へ行ってください。後で何かあったら大変です。行かないと意地を張るのなら俺が、あなたの腕を引きずって連れていきますからね」
敬語で話していても俺様な人だなと、しかめっ面をしていれば瞬が「なんだ、もうふたりとも面識があるのか! これは都合がいい」と顔をほころばせる。「話し忘れていたが、先生、この人が茶道部の新しい顧問の候補である桐生さんだ。薫、こちらが古文担当で茶道部の監督をやっている楠先生」と、かなり遅れた人物紹介をする。
おれたちは「「もう知っている」」と同じタイミングで言い、お互いに目をしばたたかせ、顔を見合わせた。
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