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第6章 第一印象=反りが合わない人1
――顔を見合わせていれば、「なんだよ、息がピッタリじゃないか!」と瞬に笑われる。
近くにいた笹野さんもおもしろがって「相性抜群そうね」なんて言ってくる。
「「どこがですか!?」」
また、おれと楠先生は同じタイミングで同じ言葉を発した。
なんなんだ、こいつ――とおもしろくない気持ちで唇をきゅっと噛みしめる。
先生も眉の間にシワを刻み込み、むくれた顔をする。まるで大人に怒られ、すねた子どものようにフンと鼻を鳴らして、そっぽを向いた。
瞬も、笹野さんもそんなおれたちのことを無視して、会話を始める。
「ところで笹野さん、図書館の見学は終わりましたか?」
「ええ、先ほどのいざこざが起きる直前に最後の質問をしていたところです。桐生さん、ほかに何か質問はありますか?」
話を振られたおれは、「いえ、ご丁寧にご説明いただいたので大丈夫です。ありがとうございます」と答える。
「滅相もございません。桐生さんが面接にいらっしゃること、またこの図書館で出会えることを心よりお待ちしております」
柔和な笑みを浮かべた彼女の言葉に返答できず、曖昧な笑みを口元に浮かべた。
「本日は貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。心から感謝しております」
「それじゃあ、薫。次のところへ行くぞ! 時間が押してるからな」
にっと白い歯を見せて爽やかな笑顔を見せる瞬に背中をドンと叩かれる。
衝撃で前のめりになった上体をもとに戻し、眉を寄せて瞬の顔をじっと見つめる。
「おまえなあ……少しは力加減してくれよ。痛いじゃないか」
「悪い、悪い!」
図書館へ目を向ければ、受付にいる鈴木さんと人形劇をやっていた生徒たちがどこか、不安そうな顔つきをして身を寄せ合い、こちらに目線を向けていた。
「それでは失礼いたします」ときびすを返す笹野さんに声を掛ける。
「笹野さん!」
「はい、どうしました?」
こんなこと、わざわざ言う必要はないとわかってる。
周りのことをよく見ているし、何より年上なんだから彼女からしたら「余計なことを」と思うかもしれない。
さっきだって、会って間もない人間に『出しゃばり』と言われたばかりだし。
だけど先輩と出会って、つきうことにしたとき、決めたんだ。誰も自分を理解してくれる人がいないから空気に同化して何も口にしなければいい。世界と自分を遮断したまま何も聞こえない、何も見えないふりをして心を動かさなければ傷つくことはない――なんてことは二度と考えないって。
雄弁は銀、沈黙は金ということわざがある。
きっと瞬や志乃さんのように親切で、無条件に困っている人に迷わず手を差し伸べる存在に、あてはまる言葉なんだと思う。
だけど、おれと先輩は、それでは本当の意味で理解し合えなかった。
不器用で間違っていても、傷つくことを恐れながら、頭の中で考えていることや心の中で思っていることを相手に伝わるよう、口にする必要があった。
「あの……子どもたちも、きっとビックリしたと思います。もしかしたら怖い思いをした子がいるかもしれません。だから『もう全部終わった』と言ってあげてほしいんです。それから鈴木さんには『勝手なことをして申し訳ありあません』と、お伝えください」
いや、だったら直接言えよって話だな……。そもそも、こうやって話しかけているだけで、彼女の仕事をする時間を無為に奪ってるわけだしとグルグル考えていれば、「そうですね」と笹野さんは相槌を打ち、なぜか泣き笑いのような顔をした。「桐生さん」
「ひゃい」
返事をしたものの声が裏返っているし、「はい」と言えずに噛んでしまい、恥ずかしい思いをする。
「また、お会いしましょうね。今度は先輩と後輩という形で」
「……へっ?」
「わたし、そこにいる楠先生のこともビシバシしごいてきたスパルタです。だから少しでも怠けたり、不まじめな態度をとったときは、うちの子どもたちや主人に対して雷を落とすときと同じ状態になるので、そこだけは覚悟してくださいね。それじゃあ!」
にこっと笑った彼女は鼻歌を歌いながら、足どり軽く図書館に帰っていった。
なんだったんだと疑問符を頭に浮かべていれば、あごに手をあてた瞬が「うーん、やっぱりオレの思った通りだ」と首を何度も縦に振っている。
「なんのことだ?」
「笹野さんが、おまえがここに来るのを楽しみにしてるってことだよ。魂の番を失ったオメガってことを抜きにしても、おまえと笹野さん、鈴木さんの相性は抜群! いいビジネスパートナーになるんじゃないかって勘が働いたんだ」
指をパチンと鳴らした瞬も機嫌よさそうに口元を緩めた。
廊下を歩き、茶道部の部室へ向かいながら瞬の観察力に尊敬の念を抱く。
「本当におまえは、よく人を見ている男だな。そのスキルは、おれや先輩には一生、身につけられないものだ」
「何ごとも適材適所。先輩には先輩の、薫には薫のできることがあるだろ」
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