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第15章 破綻4※

 我慢の限界に達したおれは身体を起こし、そのまま彼の手を掴んで一番感じるところへ誘導した。 「ここ……少し、感触が違うだろう」 「あっ、ああ……そうだな」  小動物の頭でも撫でられるようにスリスリされただけで、堪らなくなり、「ああっ!」と喘いでしまう。  目をギラつかせながら硬直する男の顔を見つめ、「上手」と褒める。 「だ、だったら、このまま続けていいんだよな……?」  自信なさげな様子で「続き」を望む彼に「ああ、頼む」とねだって、耳元に唇を寄せる。「そこを撫でて、転がして、突き上げてくれ……いっぱい感じたいんだ」  ゴクンと唾を飲み込む音がすると噛みつくようにキスされた。  「んっ……あ、やっ……」  感じるままに声を出していると男の顔が首筋に近づいてくる。やわらかい唇が触れ、離れていく。 「ここを俺で上書きしてもいいか?」と訊かれ、うなずくと待ってましたといわんばかりに肌を吸った。  しかし勝手がわからないのか唇を離したら目線をさまよわせ、「なんで跡がつかないんだろう?」と首をかしげたのだ。 「ストローでジュースを吸うような力じゃつかないぞ。こうするんだ」  後ろの穴を解していない左手を取り、手首を強く唇で吸い上げれば、小さな花びらのような模様ができた。  物珍しいものを初めて見た少年のように目を輝かせる彼が愛しくて堪らない。 「なるほど、こうやってやるんだな」  そうして彼の唇で新たにキスマークがつけられていく。  赤くなってしまった乳首もいたわるように舐められる。彼の指通りのいい髪を撫でながら、ずっとこうしたかったのだと妙に納得する。  三本指を飲み込んだおれの中はグチュグチュと音を立て、「ほかのものがほしい」とせがんだ。 「もう……平気だから……来てくれ」 「だけど……」  ふーふーと興奮した息遣いをしながら男が備えつけのコンドームを見て眉を八の字にさせる。  サイズが合わないことを危惧しているのだろうか? どちらにせよ身体に熱が溜まっていたおれは、すぐに目的のものがほしかった。 「大丈夫だ。後で……ちゃんと薬を飲むから……そのまま入れてくれ」 「……いいのか?」 「ああ」  唇にまたキスをされ、足を開く。 「俺は薬を飲まなくても構わない。覚悟はできているから」と男が変なことを口にする。  なんのことかと頭を働かせようとしたところで、ようやく男根が挿入された。  指の比ではない太さである上に五年間、セックスをしていないセカンドバージンだ。せめてディルドなどを使って自慰をしていれば、もう少しすんなり入ったかもしれないと考えながら、違和感に眉を寄せる。 「いっ、痛むのか!?」  動きを止めた男が顔面蒼白状態になる。血も出ていないのにオロオロしている彼の頬へ手をのばした。 「大丈夫だ。ゆっくり馴染ませていけば平気だから」 「本当に? 無理をしていないよな……?」と心配してくれる姿に笑みが漏れる。彼の汗ばんだ身体を引き寄せ、額を合わせる。 「もちろんだ」  そうして長い時間を掛けて彼のものを飲み込んだ。息を整えてから、彼は身体を動かし、先ほど教えたところを切っ先で小突いた。 「いい……あっ、そこ……好き……」  無言のまま男は腰を振るスピードをじょじょに速め、おれの中を擦り上げ、前立腺をこねくり回した。  彼の背中に手を回して、もっと気持ちよくなれるように腰をグラインドさせれば、彼の口から小さく「あっ……」とか「んっ」と声が漏れる。 「気持ちいい?」と訊けば、「ああ」と見ているこちらの身体がとろけてしまいそうな笑みを浮かべた。  途中で彼のものが抜け、起き上がって四つん這いになれば後ろから突き上げられ、「あっ、あっ、あっ」と短く喘ぐことしかできなくなってしまう。両手を上から手を重ね、恋人つなぎをする形で縫い止められ、無防備な背中に唇が触れる。 「……あっ! ……もう……イク……」  すると、うなじを舐められ、「噛んでもいいか?」と請われる。  さあっと血の気が引いたおれは、「駄目だ!」と叫び、彼の拘束を解いて首の後ろを手で隠した。 「なんで?」と不機嫌そうな声を出して手の甲を甘噛みする。 「それだけは絶対にいやだ。後生だから勘弁してくれ!」と言えない代わりに手を組んだ。  背後で「わかった」と理解を示してくれた彼に安心する。  そうして、挿入が再開され、ふたりでほぼ同じタイミングに欲を放った。  甘えん坊な猫のように彼は頭を擦り寄せ、背後からおれを抱きしめた。 「やっと……」と彼が何か言っている最中に眠気を感じ、そのまま、まぶたを閉じたのだ。 「……冗談だろ?」  空腹で目を覚ましたおれは、裸のまま同衾している楠先生の姿に戦慄した。  夢であってほしいと頬をつねったが痛い。  あのときショッピングモールに現れたのは幻なんかでなく本物の先生だったのだ。  そうして助けられたものの抑制剤を拒み、抱かれたいと願った。  なぜか先生は病院でなく近くのラブホテルに入って、おれの身体を洗い、求め荒れるままにセックスをした。  どうしよう、どうしようと焦れば焦るほど部屋がグニャグニャと歪んで形を変えていく。  おれの発情期にあてられて、先生はおれと若菜さんを間違えてしまったのだ。

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