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第15章 破綻5

 そうでなきゃ先生が、おれを抱いたりするはずがない……! と足に掛けてある布団を掴んだ。  オメガの生徒が多くいる高校で教師をしている。発情期の起きた生徒をアルファやベータの生徒から守り、抑制剤を摂取させる訓練を受け、実践できるアルファなのだ。  おれだとちゃんとわかっていれば、こんなことはまかり間違っても起きない。 「んっ……」と声がして心臓が飛び跳ねる。  起きたのかと思い、勢いよく顔を向けるが先生は、まだ夢の中。  胸を撫で下ろし、ベッドを下りて、備え付けのスリッパを履く。コートハンガーに掛かっているハンガーから白いバスローブを取り、身に纏って付属の紐を結ぶ。  腰や身体の節々が痛いし、頭が重い。久々に性行為をしただけでなく発情期がまだ終わってないからだ。  ソファの上に並んだ状態で畳まれている服へ手をのばす。シャツは素性不明の男に破かれて着られない状態になってしまい、部屋のゴミ箱に捨てられていたが、ほかは全部そろっている。  近くには、おれのエコバッグもあった。中からポーチを取り出す。残りの抑制剤と緊急避妊薬を手に取り、常温になってしまったペットボトルの蓋を開け、胃の中へ流し込んだ。  何かが漏れる感覚がして慌ててトイレに駆け込む。  中出しされた精液の量が多すぎてオメガの子宮が受け止めきれず肛門から出てきたのだ。ベータやアルファの男性や女性たちのようにアナルセックスをして腹を壊す恐れはないが、そのまま下着を着用すれば栗の花に似た香りがして「セックスか自慰行為をしたんだな」と人から勘づかれてしまう。  残りの白濁液もすべて出し、ウォシュレットをしてからトイレを出た。備えつけの洗面所で手を洗う。  とにかくタクシーを呼んで先生が寝ている間に、こっそり抜け出そうと扉をスライドした。 「もう起きたんですか……?」  トイレの流水音により目が覚めたのかと冷や汗をかく。  しかし先生は船を漕ぎながら大きなあくびをひとつして、おれがさっきまで寝ていた場所を手でポンポンと叩いだ。 「まだ夕飯どきには早いすよ。もう少し、こっちで寝たらどうですか……?」 「あ、ああ……そうだな」  彼に背を向ける形でベットの端に腰掛けた。  もしも今、彼の隣に身体を横たえれば抱きしめられて逃げられなくなってしまう。いつでもドアの向こうへ行けるようにしておく。 「どうしました?」と眠そうな声で訊かれて肝を冷やした。 「正気に戻ったら恥かしくて……」  ふわっと、お日様の香りがして、彼の腕が腹部に回る。 「俺もです。本当は都合のいい夢を見ているだけなんじゃないかって、現実である実感がわきます」 「いいえ、夢なんかじゃありませんよ」  ――現実は、いつだって残酷だ。  肩口から顔を覗かせた彼と目が合う。どちらからともなく何度目かわからないキスをした。  愚図る前の幼い子どものように目を閉じ、目元や額に手をあてている先生の髪を撫でる。 「疲れているでしょう? ゆっくり寝て身体を休めてください」 「いやだ……そばにいたい……」  そのまま、すうすうと寝息を立て眠りに落ちた彼の身体をゆっくり横たわらせ、布団を肩まで掛ける。 「……ごめんなさい」  思った以上にかすれ、耳障りな声がした。  彼か、それとも彼の魂の番であったオメガに謝っているのか、自分でも判別つかない。  スマホでタクシーの予約をし、服を着替える。ロングカーディガンを肌の上から直接羽織り、ボタンを全部留める。借りたバスローブを布団の片隅へ置き、静かに扉を開いて、その場を後にした。

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