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第19章 素直な気持ち4
「それは……」
「先生がちゃんと言わなかったのが悪いよ。だけど、おまえも、形式とか固定観念、理想の恋人像にこだわりすぎて大切なものを見逃してたんじゃないのか?」
よくよく考えればセフレを相手するには、おかしな発言や行動が多々見られた。
竹本先生の件だって、そうだ。魂の番に会えたのに、先生は彼とデートをしたり、家にあげるのを拒絶した。そうして、おれに弁明してきたのだ。父親と同じ轍は踏まない、と。
深刻な顔をした瞬が腕を組んだ。
「おまえが言ったんだぞ。『茶道は言葉にしないコミュニケーション。目や手、五感をフルで使い、あらゆる場所に相手を思いやり、気遣う心配りをすることが大切だ。それは客も同じ。一方的にしてあげる、してもらうんじゃなく互いをひとりの人間として尊重し、大切にすること。何が起きるかわからないこの世界で、今この瞬間、あなたに会えてうれしい気持ちを精一杯表現する。そのためには言葉や文字は必要ない』って」
「……先生は、おれと茶道をしていくうちに、おれの言葉を信じて何も言わなかったのか?」
だとしたら、あまりにもひどいことをした。
ずっと彼は、おれを「好きだ」という思いを表現してくれていたのに、一度も気づくことなく受け取らなかったのだから。
「さあな、オレにはわからない。先生本人じゃないからな」
「先生は……大和くんは、こんな自分勝手なおれに愛想を尽かしてるよな。……もうおれのことを嫌いになって見向きもしないはずだよな……そうだろ……?」
瞬は難しい顔をして、何を言ったらいいか考えているようだった。
おれは神にでも縋る思いで親友の言葉を待った。
そうして彼が重い口を開く。
「なあ、薫。おまえは、これから先、どうするんだ? 先生と、どうしたいんだよ?」
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