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第7話

久しぶりにジークと二人きりで昼食をとることができた。嬉しさで胸が温かくなったのも束の間、翌日からまた彼の姿は、ぱたりと見えなくなった。 その代わりにチルの前に現れたのは、王の側近カイルだった。毎日、同じ時間に、同じように静かに図書室の扉を開けて入ってくる。 「チルさん、陛下からの差し入れです」 彼は簡素な声でそう言って、小さな包みを差し出す。 「……ありがとうございます。これを…」 と、包みを受け取った後、チルの方は、昨日したためたジーク宛の手紙を、封筒ごとカイルに渡す。 封筒を渡すチルの手は緊張に包まれるけれど、ほんの少しだけ弾んでもいた。 会話は毎日同じ。 滞在時間も、ほんの数秒。 カイルの声は感情を大きく表さないが、どこか穏やかな響きを持っていた。 カイルが差し出すチル宛の差し入れとは、ジークが選んだという菓子であった。それは、どれもチルの好きな甘味ばかりで、毎日密かな楽しみになっていた。 はじめて渡された日は、驚いて思わず目を丸くした。しかも、毎回の菓子には必ず手書きのメッセージが添えられている。 《忙しくて図書室に行けなくてすまん》 《この焼き菓子、蜂蜜が中に入ってる。きっと君の好みだと思う》 《今日はこのキャンディにした。なんだか、君の雰囲気に似てた気がして。つい、選んでしまった》 そんな、たわいないけれど、温もりのこもったジークの言葉。差し入れの菓子も嬉しいが、こちらのメッセージの方を毎日ソワソワとしながら楽しみにしていた。 嬉しくて、チルはすぐに返事を書いた。 何を書けばいいか悩む時間も楽しくて、言葉を少しだけ丁寧に選んだ。 その手紙を、毎日カイルに託す。 彼がそれを確かにジークに届けてくれることは、もう信じられるようになっていた。 ジークからもらった小さな箱。シュガーボンボンが入っていたそれは、今では小さく折りたたまれたジークからのメッセージたちでいっぱいになっている。蓋を開けるたび、胸の奥がじんわりと熱を持つ。 昨日のメッセージには、こんな一文があった。 《明日の週末の夜、外に出て食事をしないか? 街に行こう》 その一文に、チルの心臓は、ばくんと跳ね上がった。嬉しくて、思わず小さな声を上げてしまう。誰もいない図書室の中で、チルはぴょんと小さく跳ねた。 けれどその直後、不安がよぎる。 どこで? 街のどこ? 待ち合わせは? ジークは国王陛下なのだ。人目のある場所に出られるのか?もしかして、ただの冗談だったのでは…… カイルに尋ねてみようかとも思うが、彼は無口で、あまり表情も変えない。王のことをどこまで話していいのかもわからない。 図書室で待っていればいいのか、それとも何か用意が必要なのか。そんなことをぐるぐると考えながら、昨夜はベッドの中で寝返りを打つうち、朝を迎えた。 静かな音とともに、今日もカイルが図書室に現れた。手に小さな包みを持って、変わらぬ所作でチルの前に立つ。 「チルさん、陛下からの差し入れです」 「はいっ……! あっ、あ、あの……」 思わず声が裏返る。けれど今日のカイルは、静かに言葉を継いだ。 「今夜、迎えにいくと伺っています。ここで、この図書室でお待ちください。チルさんの仕事が終わる時間に、陛下が参りますので……どうかご心配なく」 やわらかく、それでいて確かな声だった。 そしてカイルはいつものように、すっと踵を返して去っていった。 扉が閉まるその音のあと、チルの心臓はまたひとつ、高く跳ねた。

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