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【9話:怒りを知った日、それでも守りたかった 】

レオンは気がつくと、生徒指導室に居た。椅子に座らされている。授業をしていた教師と生徒指導担当が机を挟んだ向こう側に座っていた。 レオン (さっきの俺は、何をしたんだ?) 体に残る熱と、ハルトの香り。自身に注がれる教師達からの冷たい視線。 ラット。 アルファが、オメガのフェロモンで暴走すること。不本意な番が結ばれる事故は、後を立たない。そんな知識が、頭に浮かんでは消える。 レオン (それを、俺が?ハルトに?) 血の気が引いて、冷や汗が出る。目眩がして、思考がまとまらない。レオンは手で目元を覆った。その指先からも、かすかにハルトの香りがして、ぎゅっと心臓を掴まれたような思いがする。 教師 朝倉、少しは落ち着いたか レオン はい… 教師 単刀直入に聞くが、望月は番なのか? レオン そうです… 教師 今までに、望月のヒートを見たことは? レオン ありません 教師 なら、ラットになったのも初めて? 教師の坦々とした追求に、レオンはゆっくりと頷いた。 ハルトが倒れた瞬間は苦しそうだと思ったのに。甘い香りがした瞬間に、理性がどこかに行ってしまった。何をしたのか、よく思い出せない。ただ、体が勝手に動いて、首筋だけを目指していた。 レオン …俺は、ハルトを噛みましたか? 教師 いや、それは止めたと聞いている そう言われて、最悪の事態は避けられたと知る。少しだけ落ち着きを取り戻した。 レオン あの、ハルトは? 教師 抑制剤を服用して落ち着いたと聞いているが レオン 俺のせいで怪我とかは… 教師 そのような報告は受けていないから、大丈夫だろう レオン …良かった レオンは改めて胸を撫で下ろす。ただ、続く教師の言葉に、レオンはオメガの実情を知ることとなる。 教師 今日のことだが、ヒートの管理はオメガの責任だ。何か言ってくる生徒もいるかもしれないが、気にする必要はない レオン え…? 教師 望月にも、そう伝えておく。あまり気に病むな。ヒートの番に対してアルファが反応するのは、まぁ仕方がない。学校ではやめてほしいがな? 子供がイタズラをしたのを軽く咎めるような口ぶりだった。教師はそれで、言いたいことは伝えたとレオンに席を立つよう促す。 しかし、ふつふつとレオンの中で許しがたい気持ちが湧いてきていた。 レオン(学校では…?生徒であるより前に、オメガだから…?) ハルトは、抑制剤を処方してもらっていた。ちゃんとヒートを管理していたんだ。それに、襲いかかったのは、アルファである俺だ。傷つけたのは、俺なのに。 オメガが悪いって言うのか? それが、当たり前? あの日、ハルトが言った「オメガ扱いされたくない」とはこういうことなのか。 同時に、それを今まで知らなかった自分に対しても腹が立ってくる。いや、見えていたのに素通りしてきたのだ。差し出されたものを、考えずに手にしてきたから。自分には関係ないと思っていたんだ。 でも、今は違う。ハルト自身を見ずに「オメガだから」と断じるこの常識は変だ。 ドン!と、思わず机の天板を拳で叩いていた。急な音に、教師達がびくりと震える。 レオン ハルトに…もし、今日のことでハルトに何か不利益が出るようなら、この学校ごと潰すからな 何もかもを持つアルファの怒りが、部屋中にひびく。絵空事のような子供じみたセリフも、信じさせられるアルファの圧。この部屋でだけ、今はレオンが支配者だ。 朝倉家であれば、そのくらいはできてしまうかもしれないという事実も相まって、教師たちはくちをぱくぱくとさせるしかできない。冗談はよせと、受け流すことも。 レオンは怒りを抱えたまま、生徒指導室をゆっくりと出ていく。 その怒りは、自分自身にも向いていた。…番とかではなく、嫌われてしまったかも知れない。それでも。 レオン (…謝罪、しないと) そう決意して、教室へと歩を進めた。

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