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【10話:嵐のあとの、息苦しい教室で】
指導室からレオンが教室に戻ると、視線が一斉にこちらを向く。数名の生徒が、たたたっと駆け寄ってきた。
生徒 レオン様、大丈夫ですか?
生徒 気にしちゃダメですよ。私たちは味方です!
生徒 レオン様が、オメガを気にする必要無いですよ
先程教師達の口から聞いたような言葉が、今度はクラスメイトから発せられる。収まったと思った怒りに再び火がつく。
レオン 黙れ
気がつけば、唸るようにそう一言だけ発していた。続けて罵詈雑言が出そうになるのをぐっと飲み込む。クラスメイトは、青ざめて教室を出て行った。足跡が遠ざかるのを聞いて、ため息を吐いた。
席に戻ると、ハルトは居なかった。田中たちがレオンに気づいて声をかけてくれる。
佐藤 おい、朝倉大丈夫か?お前も顔色悪いぞ
レオン ああ。落ち着いた。さっきは、止めてくれてありがとう
田中 お前、ガタイ良いから大変だったぞ
レオン …悪かった
田中 じゃあ、今度食堂でなんか奢ってくれ
田中は、レオンの肩を一つ叩いた。落ち着きがやっと戻ってきて、レオンは「ああ」と了承する。
レオン …ハルトは?
佐藤 早退した。先生が帰れってさ
レオン ヒート、だからか?
佐藤 それは俺が薬飲ませて落ち着いたんだけど、念の為?って感じ
レオン …俺のせいだな
レオンは少し俯いた。田中が聞きにくそうにしながら口を開く。
田中 …お前さ、番だろ?望月の
レオン …ああ、そうだ。ハルトは、認めてくれないけど
佐藤 アイツはそうだろうなぁ。ってか、番って抑制剤効きにくいらしいけど、知ってたか?
レオン そう、なのか?
佐藤 番のアルファが近くにいると、ヒートになりやすい、らしい?俺もベータだから詳しくしらないけど
そう言うと佐藤は肩をすくめた。田中を見ると、自分も良くは知らないと首を振る。
それなら、尚更悪いのは俺だ。知らなかったとはいえ、ハルトをきっと苦しめてしまった。
しかし、謝りたいのにハルトは居ない。小さく心の中で気合をいれたレオンは、田中に告げた。
レオン …ハルトに謝罪したい
田中 そっかそっか。キングが頭を下げるなんて、番ってのは泣かせるねぇ
冗談めかした田中の言葉には反応せず続ける。こういうときは、無視してもいいと学んだ。
レオン 家まで謝罪に行けばいいか?それとも、明日登校してきたらでいいのか?
佐藤 どうだろ?望月は、ヒートになると1週間くらい休むこともあるからなぁ
佐藤たちはハルトと長く過ごしてきたのだろう。当たり前のように言う姿に、少しの嫉妬を覚える。そんなこと言えた義理はないのに。
レオン …ヒートになっているなら、アルファの俺に会うのはリスクかもしれないな
佐藤 電話すれば?メッセージ送るとか。会わなくても、謝る方法はあるっしょ?
佐藤の助言に、かすかな希望を覚えた。友というのは、こういうときのためにいるのかもしれない。
とは言うものの、許してもらえるかは分からない。だが、与えてしまった不安を考えると、自分が感じている恐怖心は、取るに足らないもののように思えた。
佐藤 望月もさ、朝倉のことちょっと気にしてたし、話したほうがいいよ
レオン そうか…考えてみる。ありがとう
気にしていた、とはどういうことだろう。少し疑問に思ったが、記憶の中で靄がかかった苦しげなハルトの顔を思い出すと、聞き返すことができなかった。
2度と、我を忘れることがないようにしなくては。レオンはハルトの表情を胸に刻んだ。
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