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【13話:望んだ距離、寂しい距離】

ハルトはあの電話の後、本格的なヒート期に入った。抑制剤は準備していたが、レオンがまたラット化しないとも限らない。その懸念もあって、ヒート中は学校を休むことにした。 休み中に、佐藤や田中から体調を気遣う連絡や学校の様子の報告などもあった。友達のありがたさを感じる。 レオンからも、昼に食べた食堂のうどんが美味かっただの、体育の授業でハットトリック決めただのメッセージが来ていた。友人たち曰く『友達っぽいコト』の練習らしい。 ハルト (それバラされてんのに送ってくんなよ) つい笑ってしまう。どうせ、真剣な顔して文字打ってんだろアイツ。 友達でいようと言った自分に応えてくれているのは、素直に嬉しかった。 同時に、何かを掬い損ねたような、申し訳ないような気持ちもある。 どこか、寂しさも。 でも、そこに目を向けるのは、怖かった。 ハルト自身、自分の気持ちの整理がついていない。そんな状態で、番だからとレオンの気持ちを受け取ることはできない。 今まで自分がオメガという性を拒否してきたことに対しても筋が通らない。 理性と感情がぐちゃぐちゃだ。 早退した日に考えたこと、電話の後に考えたこと、そのどれにも答えが出ないまま、ヒートも収まり久しぶりに登校する日になった。 ハルトが登校すると少し教室はざわついたが、思っていたほど注目はされなかった。てっきり取り巻きの連中が嫌味の一つでも言ってくると思ったのに。あんなことがあっても、変わらない教室。 席に向かうと、レオンがもう隣の席に座っていた。そこは、変わらないままらしい。 ハルト …おはよ レオン おはよう、望月。平気か? ハルト おう それだけ交わして席に着く。 あの日以来、久しぶりに顔を見た。少しだけ緊張してしまう。 ハルト (大丈夫だ。念の為抑制剤飲んできてるし、予備もある) 佐藤や田中が登校してくると、前みたいに賑やかになる。これでいい。 …いや、これがいい。 ハルトは、自分に言い聞かせた。チラリと横目でレオンを見るが、以前のようにこちらを見ている様子はない。 …遠い。ハルトはそんなことを思った。友達の、距離。 あの日の電話以降、レオンはハルトを望月と言うようになった。レオンなりの線引きなんだろうと、ハルトは解釈した。 以前のようにやたら後をついてくることもないし、ズレたことを聞いてくることもない。 他の友人と同じ距離感で、接してくる。 微かに、互いのフェロモンが香っても。

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