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第5話

そんな会話をしていたら、広瀬が、彼に話しかけていた同い年くらいの女性を3人連れて戻ってきた。 鈴野はすぐに広瀬の話題をやめた。2人は若い女性に似合いの明るい色調の訪問着。1人は洋服、だけど結婚式の来客が着るようなパールピンクのドレスだ。 あいさつしたり名前を名乗ったりした後、「詩吟を習ってるんですか?」と宮田が質問した。 先ほどの発表会には出ていなかったような気がする。だが、発表会の大半は寝ていたので自信はない。 女性たちはクスクス笑いながら首を横に振った。「私たち、誘われてきたんです。お華のお教室の先生がこの会の先生とお知り合いで」 「おはなのおきょうしつ」と鈴野に口は生まれて初めてそのような言葉を発したようだった。「お、僕たちもなんですよ。誘われて」 「広瀬さんに聞きました」と女性の1人がにこやかに言った。「ご近所の方に誘われたんですよね」そう言いながら彼女は高級住宅地の名前をあげた。 鈴野が怪訝な顔をする。「広瀬、そんなとこに住んでるのか?」 「じゃなくて、そこに住んでる知り合いに、ほらさっきの花沢さんに、チケットもらっただけだよな、広瀬」とあわてて宮田が返した。 広瀬はうなずいている。ぼんやりしやがって、と宮田は思った。東城の住所をあっさり言うなんて、鈴野がなにか感づいたらどうするんだ。 だが、広瀬は全く宮田のそんな心配に気づいていないようだった。 女性たちとおしゃべりしていると、むこうから年配の女性が男を伴ってやってくる。 小柄で痩せているが姿勢のいい女性だ。白髪交じりの髪をきちんと結い上げて、着物姿がピシッときまっている。 男の方は背が高くかっぷくがいい。派手なストライプのスーツ姿だ。年齢は50代といったところか。つま先がとがった革靴をはいている。 彼女は、こちらにあいさつして来た。 女性たちが、「先生」と口々に言う。「わたしたちのお華の先生なんです」と紹介してくれた。 お華の先生は、今日の詩吟の会の感想を聞いてきた。「すばらしかったです」とかなんとか鈴野が当たり障りない感想を答えた。 派手なスーツ男は若い女性たちに会釈をした。 「こちらは武中さん」とお華の先生が紹介する。 「詩吟されてるんですか?」と女性の一人が質問している。 武中は首を横に振った。 「知り合いに招待されてね」と彼は言った。 そして、ジロジロと広瀬を見て、鈴野と宮田にも視線をむけてくる。 「我々も紹介できたんです」と宮田は彼に告げた。 「ああ、そうか」と武中はうなずいた。傲慢な感じのする男だ。 お華の先生や女性たちは武中に熱心に話しかけている。 何者なのだろうか、と宮田は思った。カタギじゃない雰囲気もあるのだが。宮田たちは身分を明かさなかったし、武中も自分が何者か示すものはださなかった。

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