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第7話

「なんですぐ110番させないんだよ」と東城がネクタイをはずしながら言った。 彼の出張が思ったより長引いたり、広瀬が忙しかったり、なんだかんだで、結局、10日ぶりくらいに東城に会った。 仕事から帰ってきた東城に詩吟の会はどうだった?と聞かれ、かいつまんで話をした。そして、武中の財布の話までしたら、それまでふんふんとあいづちをうっていた言っていた口調が、急に厳しくなったのだ。 「すぐに財布はみつかりましたし」と広瀬は答える。 「中身がなかったんだろ。泥棒じゃないか」 東城は、シャツのボタンをはずしていく。袖口もはずし、大きな動作でシャツを脱いだ。 「ちゃんと110番で通報させろよ。だいたい、刑事が3人雁首そろえて、お前と宮田と、えっと、もう一人、」 「鈴野です」 「そう、鈴野とやらがいて、なんで、黙って、その男を帰らせるんだよ。そんな話、上に知れたら、問題になるぞ。犯罪行為があったっていうのに、ぼんやり、何にもしないで、そのまま帰ってくるって、大丈夫か、お前ら」 「でも、中身は最初からなかったかもしれないじゃないですか」 東城は、ベルトをはずす手をとめた。怪訝そうに肩眉をあげている。「どういうことだよ」 「中身は最初からなかったけど、みんなの手前見栄をはったっていうこともあります」 「なるほど」と東城は言った。「そういう考え方はあるな。本人が大袈裟なことにしたくなかったってことか」 広瀬はうなずく。 「そう解釈はできるかもしれないが、お前、今考え付いただけだろ、それ。そういう時は、きちんと、通報させるんだよ。気をつけろよな」 そう言いながら彼は、脱いだ衣類を手に持って、ウォークインクローゼットでスーツをかけ、そのまま浴室に入っていった。

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