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第12話
詩吟の会から数ヶ月たった後、広瀬は、大井戸署の1階で鈴野に話しかけられた。
「この前のパーティで知り合った女の子から相談を受けてるんだけど」と彼は言った。ひそひそ声だ。「ほら、あの、お華習ってた女の子たち、いたろ」と急な話しに当惑している広瀬に説明する。「今晩時間とってくれないか?」真剣な表情だ。なんだろうか。
鈴野に指定された店に行くと、宮田も呼び出されていた。
店は、明るいこぎれいな居酒屋で、厚手の布の仕切りがあり、個室のようになっている。狭いが、声は外に聞こえにくい。
鈴野は、酔うと話ができないといって酒を口にせずウーロン茶を頼んでいる。鈴野は酒に弱いようだから飲まないのは正解だろうと広瀬は思った。
鈴野が飲まないので自分たちだけでは飲みにくく、宮田も広瀬も同じくウーロン茶にした。
「で、なんだよ」と宮田は聞いた。
「この前、詩吟の会の後のパーティでお華習ってる女の子たちにあっただろ。あの中の一人から連絡があったんだよ」
「連絡って、どうやって?」
鈴野は自分のスマホのSNSの画面を見せてくる。
「お前、いつのまに連絡先聞いてるんだよ」宮田はすげえな、と言っている。
「いつも、ここまではだいたいうまくいくんだよ。問題はこの先に見えないガラスの天井があるってことだ」と鈴野はわかったようなことを言った。そして、今はそんな話はどうでもいいんだ、と自分で言った。
「あの時、3人いただろ。あの3人は、お華の教室仲間で職場も出身校も違うけど、年も近くて仲はいいらしい。教室の後でご飯食べたり、一緒に買い物に行ったり、この前みたいに、何か会があると行ったりしてる。合コンにも。俺、あの中の1人に相談があるっていわれて、昨日の夜会ったんだよ。真壁愛海さんっていうんだ」
「それで?」
愛海は、小さな食品会社の営業事務の仕事をしているらしい。イタリア料理の店を指定してきた。鈴野はわくわくしながら行ったが、話は真剣な相談ごとだった。
「武中って男いたろ。パーティの終わりごろに財布がないとかなんとか言ってたやつ」
「ああ、いたな。派手なスーツのうさんくさそうな奴だろ」
「そうだ。その男、あのパーティの後、お華の教室にきたらしい。お華の先生と親しくなったんだって。教室の後で、お茶を飲んだりしていて、そのうち、愛海さんと一緒にいた女の子の木下真由さんって子と親しくなったらしい」
「親しいって、所謂男女の仲ってことか?」
「そうじゃない」と鈴野は答える。
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