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第16話
「嫌がらせとしか思えない話なんだけど」と東城は言った。「なんで、こんなセミナーに仕事でもないのにいかなきゃなんないんだよ」彼は広瀬が示したタブレットのチラシ画像を見ている。「ハピハピ協議会ってなんだよ。ふざけやがって。真面目な会じゃないだろ、誰がみてもわかりそうなもんだ」
「投資詐欺かもしれないんですよ」
「投資詐欺?投資詐欺は、立件が難しいんだ。仮に俺がそのセミナー行ったからって、何かすぐに証明できるわけないだろ」彼は、広瀬にタブレットを返してくる。
「立件が難しいことには、関わりたくないんですか」
「そうは言ってない。こんな不特定多数を相手にした無料セミナーでいきなり投資詐欺の話をするとは思えないし」
「東城さんが行かなかったら、花沢さん一人で行っちゃうんです。宮田がいくって言ってましたけど、本心じゃあ行きたくなさそうだったし」
「だから?花沢さんが一人で行ってもなんもないだろう。一人で行っても何人で行っても。相手は金が欲しいだけなんだから。金もらえない相手に時間割いたりしねえよ。プロなんだから」東城は、首を横に振る。「広瀬さんはご存じないんでしょうけど、僕はかなり忙しいんですよ」わざとそんな言いかたをする。
「勧誘しているのは、会場で財布盗まれた男なんですよ」
「聞いたよ、それも」
「財布の件も、変だと思いませんか?投資詐欺とか、自己啓発セミナーとか、全体的にうさんくさい」
「そんなやつはいっぱいいるよ。うさんくさいやつ、この大都会東京にはあふれかえってるんだ。いちいち追求してたら、身体がいくつあっても足りないよ」
「投資の話はでているんです。出資法違反かもしれませんし」
「管轄外だ。興味ないから」
「『なんでもする』って」
東城は小バカにしたように笑う。「あれは、ベッドの上の話」
「地域を限定されてはいませんでした」
「お前ねえ、わかって言ってるだろ」
「でも」
「だいたいこのセミナーに行ったからって、俺にどんな得があるっていうんだ」
「得って」
広瀬はじっと黙って東城を見た。
「損得で判断してなにが悪いんだよ」
「悪いとは言いいませんが」
長い静かな時間が流れた。東城はため息をついた。
「セミナーに一回行くだけなのか?」
「はい」
「花沢さんと?」
「はい」
「俺になんの得もなかったら弁償してくれる?」
「弁償って何の?」
「俺の、お前と楽しめただろう時間の弁償」
「考えときます」
東城は自分のスケジュールに次のセミナーの日時を入れた。開始は平日の遅めの時間帯だ。その時間は忙しい東城には厳しいだろうが、一回行くといったらなんとか間に合わせるだろう。
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