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第18話

花沢さんの家に急いでやってきた広瀬を二階にあげて、席と日本酒を勧め、花沢さんはおつまみにと珍味を入れた器を追加してきた。 花沢さんの奥さんはまた不在らしく、家の中は3人がいる台所をのぞいてしんとしている。 「来てたのは、30人くらいだったよ。鈴野さんに見せてもらった写真の女の子2人もいた」と花沢さんがセミナーの話を説明してくれた。真由さんともう1人のお友達の女性だ。「若い人、30代くらいが多かったかなあ。見た感じほぼ会社員だったよ。男の方が多い。俺と同年輩は2人くらい。後ろに座ったから様子はよくわかった」 セミナーは司会者、講師2人だったらしい。終始なごやかで、楽しい話だったようだ。ところどころで人生観を変えてビジネスを成功させる方法や日本経済、投資の話もでてきていたらしい。しかし、強制されるようなことは全くなかった。ゲラゲラ笑っているうちにセミナーは終わったらしい。 「真由さんのお友達は入門講座申し込んでたよ」と花沢さんが答えた。「俺も、この先どんなになるか知ったほうがいいと思ってさ、申し込もうって言ったんだけど、東城クンが絶対だめだってうるさいから、やめたんだよ」 「講師がすごく弁が立って、客をのせるのがうまいんだ。開始して10分もするともう笑いの渦でさ。参加者みんな気分よくなってて、最後の高揚感が半端なかった。終わった後で、入門講座5回分30万円の入会が勧められるんだけど、ほぼ全員申し込んでたな。花沢さんも入りそうになっちゃって、止めるの大変だったよ」と東城がセミナーの様子を説明してくれた。 「入門講座受けないと、実際にどんなことが起こるのかはわからないと思うけどね。講師や、武中とも親しくなれそうだし。俺、わりとどんな奴とも友達になれるから」と花沢さんが惜しそうに言う。「まだ、来月からのコースには間に合うんだけどね」と当日配られた申込書を見せてくれた。 「入らないでくださいね」と東城が念押ししている。「こういうのは入るとずぶずぶはまっていって、気づいたら、莫大なお金をとられるってことになりますから」 入門講座の申し込みよりも大事なことがありますから、と東城は花沢さんをセミナー会場から引きはがしたのだ。 かなり時間は遅くなっていた。東城は入会したがっている花沢さんをなだめて地下駐車場に降りた。 ビルの貸し会議場専用の駐車区域に2台の車が停まっていた。1台は荷物が積めるワゴンでもう1台はセダンだ。東城は両方とものナンバーを控える。そして、花沢さんに、駐車場の隅に隠れて車がでないか見張っていて欲しいと頼んだ。 もしも、車がでたら、携帯で連絡してください。追いかけたりは絶対しないでください。駐車場で飛び出すと危ないんで、と噛んで含めるように言った。 それから別に停めていた車を動かし、ビルの駐車場の出口が見えるビルの陰に停める。そして、花沢さんを呼んで助手席に座るよう促した。 「ここで連中が降りてくるのを待ちましょう」と花沢さんに告げた。 やっと花沢さんは入会以上に面白いことになりそうだと思ったようだ。助手席でおとなしくなった。 30分以上待って飽きてきた頃に、車が2台でてくる。ワゴン車には4名が乗り、セダンには1名が乗っているようだった。 東城は車を出して後をつけた。 「このままついて行ってどうするんだい?」と花沢さんが質問する。 「居住地までいけば、そこから身元の詳細など深い情報が得られる可能性があります」と東城が答える。 「へえ。尾行ってやつだ。刑事ドラマみたいだね」と花沢さんが感心している。 「でしょう」東城がうなずいた。 「もしかして、広瀬さんたちと一緒で、警察の人?」 「そうです。ご存じなかったんですか?」 「ああ。広瀬さんの友達としか聞いてなかったから」 セミナーのあるビルの1階で待ち合わせしたのだが、東城が走って現れたのは時間ぎりぎりで、挨拶もそこそこに会場に入ったのだ。 「そういえば、名前も聞いてなかった」 「東城といいます」と運転しながら礼儀正しく会釈をした。 2台の車は途中でわかれた。東城はセダンの方を追う。 「なんで、こっち?」 「武中を追ってるからです。彼は、調べたら興味深いことがありそうです」

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