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第27話

広瀬は先にベッドに横たわって東城を待っていた。しばらくして、彼が、入ってくる。 手には、見たこともない金属の器具があった。光沢を放つ細長い金属がぐるぐるとねじれている。 表情には出さなかったが一瞬ぎょっとした。こういう器具を使う趣味があるとは聞いていなかったからだ。 瞬間的に色々な想像が頭を駆け巡る。誕生日だからと彼が今まで秘めていた望みを告白されたらどうしよう。 だが、広瀬が想像したこととは全く違うことを言った。 「これ、なんだと思う?仙台の叔母からなんだけど、文房具らしいんだ」 そういいながら渡された。 便利グッズみたいなものだろうか。こっそり安心し、自分もあちこちひっぱったりおしてみたりするが、形は変わりそうにない。すぐにあきらめて東城に返した。 「仙台の叔母は毎年こういう知育玩具みたいなの贈ってくるんだ。一週間くらいしたら種明かしの手紙を送ってくる。パズルとか仕掛けとかすごく好きなんだよ。子供の頃に何回も騙された。最近、仙台の家を新築したから遊びに来いって言われてるんだけど、忍者屋敷みたいにだったらいやだと思って、まだ行ってないんだよ」そんなことを言いながら文房具をいじっている。 真剣に文房具を操作しようとしている東城の横顔をみて、広瀬はふと、からかってやろうという気分になり、何気ない風を装って東城に言った。 「そういえば、東城さん。この前聞いたんですけど、某老舗の若奥さんが東城さんに好意をよせているらしいですよ」 東城は文房具を持つ手をとめた。広瀬の言葉の意味を理解しようとしているようにわずかに頭をかしげた。 しばらく沈黙が流れる。東城は、ふっと笑顔をみせた。 「それ、『アザミ』の若奥さんだろ。60代の」と彼は言った。「花沢さんに聞いたよ。この前、花沢さんと飲んでたときに、すぐにそのこと言われた」 なんだ、知ってたんだ、と残念な気持ちになる。 東城は文房具をベッドサイドのテーブルに載せた。そして、広瀬に手を伸ばし抱き寄せてくる。耳元に口を寄せられた。「そんな話して、俺がどんな反応するのか知りたかったのか?」 「別に」と広瀬は答えた。 「俺がその若奥さんってどこのだれって聞いたらどうするつもりだった?」 息が耳にかかる。広瀬は身体を縮めた。 「さっきの女の子のプレゼントの仕返し?」 「そんなことは全くありません」 「それとも、俺がお前に惚れてて、他のは目に入らない、モデルの女の子だって、若奥さんなんて言葉だってたいしたことないって、わかってたのか?自信あるんだな」 手をとられて指をからめられた。右手の中指をそっと噛まれた。この感覚には弱いのだ。広瀬はぎゅっと目をとじ、かぶりを振った。こんな風に東城が言ってくるような展開にするつもりはなかったのだ。顔がなぜか赤くなる。 「いいさ。自信あるくらいのほうが。可愛いやきもちならいいけど、俺のことで不安になんかなって欲しくないから」そんなことを言った。

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