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第30話
「この千鳥弁護士の事務所に行けば、本当に被害者がいるのかどうかわかるんじゃないか」と宮田が言った。「できれば、千鳥弁護士の顧客を紹介してもらって、直に話を聞くことができるといいんだけどな。連絡とろうか?」
「ああ、その弁護士事務所には俺が行くよ。協議会の事務所にいけなかったからな。それは俺がうけもつ」と鈴野が言った。「愛海さんと一緒に行ってみる。被害のことが具体的にわかれば真由さんをとめることができるかもしれない」
「そうか?じゃあ、それは鈴野の担当な」と宮田は言った。
広瀬が、今までの経緯を自分のタブレットに記録している。こんな私的な用事に使っていいのか?と宮田が心配になって聞いたら、「わからない」という答えが返ってくる。「悪いことしているわけじゃないから。それに、色々記録できるから便利だし」と広瀬は答えた。
「協議会の事務所で他にわかったことはあるのか?」と鈴野が広瀬に聞いた。
「管理会社に電話で聞いた」と広瀬は答える。「協議会があのビル借りたのは、2年くらい前だ。その前は別な場所にいたらしい。協議会は法人登記がない任意団体だ。契約者の個人名は教えてもらえなかった。任意団体で賃料を払われなくなったらどうするんですかって聞いたら、笑われた。後で調べたら、ビルオーナーは、ヤクザがらみだった。普段は、表立ってはいないし、真面目にビルオーナー業やってるけど」
「協議会自体がヤクザがらみという可能性は?」と宮田が聞いた。
「それもある」と広瀬は答えた。
「自己啓発セミナーや投資詐欺のバックにヤクザがいるっていうのはよくある話だからなあ」と宮田は言った。
「北池のヤクザって黙打会か?」と東城が聞いている。
「そうだといえばそうです」広瀬はタブレットを示した。「黙打会系のヤクザです。でも、直系じゃありません。事務所のオーナーのケツもちを黙打会の賛助団体がしているという感じです」
「賛助団体かもしれないが、お前、もう、そこには近づくなよ。お前が自分でその辺をうろうろしているってわかったら北池署に怒られるぞ」と東城が言った。
「わかりました」と珍しく素直に広瀬がうなずいている。
「武中はヤクザなのかい?」と花沢さんが聞いてくる。「そういえばそんな雰囲気もあったねえ。おっかなそうだった」
「その線で、武中のことは調べています」と東城が言った。「この前、花沢さんと一緒に行った武中のマンションには、武中の表札はありませんでしたよね。確認したら『武中』という名前の住人はいないということでした。偽名を使っている可能性があります」
「偽名っていうのは?武中が偽名なのかい?それとも他の名前を使ってマンションに住んでるのかい?」
「それは、これから情報を集めます。協議会のビルのオーナーの組織についてもこれからあたってみます」と東城は答えた。「ところで花沢さんは、詩吟の先生からその後何か情報はありましたか?」
花沢さんは残念そうに首を横に振った。「先生のお弟子さんで、セミナーにのめりこんじゃった人はいないそうだ。先生からするとよかったってことなんだろうけどね。誰かいたら、みんなに紹介できたんだけど」
「そうですか」と東城はうなずいた。「被害者が出ていなくてよかったですよ」
「そうだねえ」と花沢さんは言った。
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