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第35話

夜に、広瀬は、東城と二人で、花沢ふとん店に行った。看板の脇にある、白いボタンのドアベルを鳴らした。 ドアが開く。出てきたのは年配の女性だった。エプロンをしている。 東城が丁重に挨拶をした。 女性は「あらあ。まあ、まあ」と大きな声をあげて、広瀬と東城をかわるがわるみている。そして、「最近、主人の遊びに付き合ってくださってる若い方ね」と言われた。「すみませんね。暇してるので、うるさいでしょう」 どうやら花沢さんの奥さんだったようだ。本当にいたんだ、と広瀬は内心思った。実はいないんじゃないかと思い始めていたのだ。 「いえいえ、とんでもない」と東城がにこやかに答えた。 すると、花沢さんも姿を見せた。 「やあ、こんばんは」と彼は言った。「上がっていきなよ」そして、奥さんに告げた。「この前、向こう通りの喜美さんが田舎から送ってきた魚介の珍味くれるっていってただろ。あれ、もらってきてくれよ」 「え、今?」と奥さんは言った。「遅いのに」 「こいつらに食べさせてやりたいんだよ。めったに食べられないものだって喜美さん言ってたから」 「いいですけど、喜美さん、話長いから、すぐには戻れませんよ」 「いいよ、いいよ。待ってるから」と花沢さんが言った。「気をつけてな」 奥さんはしぶしぶだが、エプロンをはずして、つっかけを履いて出て行った。

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