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第38話

「そうかい。やっぱり、東城クンに来てもらってよかったんだな」 「広瀬が刑事だっていつからご存知だったんですか?」 「広瀬さんだけじゃなくて、東城クンも刑事さんだってことは知ってたよ。もちろん最初は全然知らなかった。最初って言ってもそれは広瀬さんに傘を貸したときじゃないよ。前も言ったけど、広瀬さん、モーニング食べに『アザミ』に来てただろう。『アザミ』の奥さんたちが、『イケメンがくるのよ』ってさかんに女房に自慢するんだよ。女房ときたら、ミーハーだから、一回見てみたいって言ってさ、広瀬さんがモーニング食べに来たら連絡してくれって頼んでたんだよ。それで、ある朝、電話で『来たわよ』って言うから、女房と俺とで急いで見に行ったんだ。俺は、正直、イケメンったって、たかが知れてるって思っててね。奥さんたち常連の老人しか相手してないから、ちょっと若い男がきたら『イケメン』とかいいそうだなあって思ってね」と花沢さんは言葉を切った。 「それで、行ってみたらあんたたち二人がモーニング食べてたんだ。俺たちが店に入ったの気づかなかっただろう。東城クンは『アザミ』の自家製ドレッシングが美味しいとかなんとか、奥さんたちに調子のいいこと言ってたよ。俺と女房、あんたたちの後ろの席に座ったんだよ。女房は、広瀬さんの顔よく見られるように座って、俺は、東城クンの真後ろだったんだ。そしたら、あんたたちのぼそぼそ言う会話が少しだけ聞こえた。監視カメラがなんとかとか、警部補がどうとかこうとかいう話だった。ほんの少しだけですぐに終わった。犯罪者か、警察関係者かな、って思ってね。興味がわいたんだ。だから、ここまでは、本当に偶然だったんだよ」 そのときは二人に興味をもっただけで、それ以上のことはなかった。 だが、それからしばらくして、雨の夜に、広瀬が傘もささずに自分の店の前を走って通り過ぎるのに気づいた。 花沢さんは、店の傘をもって、広瀬に声をかけたのだ。 「最初はね、広瀬さんたちをここまで巻き込むつもりはなかったんだ。浜岡って怪しい奴がいるとか、変な投資セミナーがあって身近な人が被害者になることもあるってことを、警察の人がわかってくれればそれでいいか、って思ってたんだ。ところが、思っても見なかったんだけど、広瀬さんと宮田さんと鈴野さんが、すごく親身になってくれたから、正直びっくりしたよ。投資詐欺って難しいから警察は相手にしてくれないんだって言う人が多かったからね」と花沢さんが言った。「あんんたたちには悪いなって思ったんだけど、もう少し、浜岡の件に踏み込んでもらいたくなったんだよ」 「千鳥弁護士も花沢さんの仲間ですか?」 「そうだよ。この話したら、自分も協力したいって言うから、広瀬さんが協議会のビルに行く時間を教えたんだ」と花沢さんはうなずいた。「こういったことは罪にはならないって千鳥弁護士もいってたよ。そうだよね?」 「武中の財布の件以外は。財布から金をとったのなら問題ですが、時間もたっていますし、誰が犯人かは結局わからずじまいでしょうし、盗られた本人がいいっていってたんですから、事件にはできにくいでしょうね」 花沢さんはうなずいた。 そこに、花沢さんの奥さんが戻ってきた。「遅くなっちゃってごめんなさいね」といいながら帰ってきた。 花沢さんは奥さんに「ありがとう。でも、こいつらもう帰るらしいから、その珍味、もたせてやって」と言っていた。

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