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第39話
2週間ほどたった後、広瀬が宮田と一緒に車で大井戸署に戻ると、鈴野が後部座席にすべりこんできた。
そういえば、花沢さんの話まだ鈴野と宮田にはしていなかったな、と広瀬は思った。どう説明をしようかと迷っているうちに時間がたってしまったのだ。
「どうしたんだよ」と宮田が驚いている。
「それが、」と鈴野は口ごもった。「愛海さんと連絡がとれなくなったんだよ」
鈴野は、スマホをみせてくれた。
「もしかしたら捜査協力してもらうかもって連絡して、わかったって言ってたのに、今朝見たらアカウントが消えてるんだ。なんか悪いことに巻き込まれてないといいんだけど」
確かに、愛海さんと思われる相手は「削除されました」という表示がでている。
「あー、これは」と宮田は言った。「気の毒だけど、鈴野、彼女は警察の本格的な捜査には協力したくないし、それに、お前には関心なかったってことじゃないのか?」
「そうなのか。でも、なんでアカウントまで消すんだよ」
広瀬は、そこで決心し、この前の花沢さんの話を鈴野と宮田にした。
2人とも時々質問をしながらも、一通りは理解したようだった。
「じゃあ、さ、その、愛海さんは、俺を騙してたってこと?」と鈴野がやや不安定な声で質問してくる。
「騙してたっていうか」と鈴野を慮って広瀬は言葉を濁す。
「いや、そうなんだな。そもそも愛海さんって本名だったのか?真由さんも。どうなんだろう。俺、このSNSのアカウントでしか彼女とつながってないし、電話番号も住所も何にも知らない。食品会社に勤めてるっていってたけど、それも、嘘か」と独り言を言っている。「真由さんが金融機関に勤めててというのも嘘だったんだな。千鳥弁護士に聞いたら、愛海さんのことわかるかな」
「追求しないほうがいいと思うけど」と広瀬は言った。
「そうだよな。そうだ。広瀬の言うとおりだ」鈴野は気の毒になるくらいがっかりしていた。
「あー。なんか、ショックだ。なんのためにこんなことしてたんだろう。時間使って。バカみたいだ」
「浜岡や詐欺のグループが逮捕されるかもしれないから」と広瀬は答えた。
鈴野は首を横に振る。「いいよ、いいよ。お前に言われると、自分がほんと嫌なだめな奴って気分になって、ますます落ち込みそうだ」
広瀬は口をつぐんだ。何を言っても、今の鈴野には効果はなさそうだ。
「広瀬にあたるなよ」と宮田が言った。
鈴野は、そうだな。ごめんな、と言っていたが、肩を落としてしょんぼりしていた。
鈴野が車から去った後「結局、今回の件で得をしたのは、東城さんてことか」と宮田がつぶやいた。「浜岡のこと調べて、2課に恩売って。あの人がこんなことにやけに熱心だから変だとは思ってたんだよな」やられた、と宮田はブツブツ言っている。
そういわれてみるとそうだな、と広瀬も思った。
ずうずうしいところのある東城のことだから、後から平然と広瀬に時間の弁償をしろとか要求してきそうだけど、それには応じないようにしよう、と思った。
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