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第30話*
あの日、ハルくんと両想いだとわかった日から穏やかな日が続いている。
本当は最初から欲しかった幸せな日々。
シゲルさんと出会う前のような心休まる日々。
ハルくんに番 にして貰える。って、信じていた時に似ている。
僕は、あれからあの家には帰っていない。
シゲルさんと暮らしていた家は、早々に売却されてしまったから……
ハルくんが一緒に暮らそうって言ってくれなかったら、路頭に迷っていたかもしれない。
シゲルさんとは、あの日を最後に一度も会ってはいない。
たった一通のメールだけが送られてきて、僕はとっくに彼に捨てられていることを知った。
あの子と正式に番 になること……
あの子と再婚したこと……
二人で貯めていた貯金は全部取られてしまったこと……
色んなことが書かれていた。
本当なら、そんな大切なことを一方的に文章だけで伝えられたら怒りと悲しみでおかしくなってたかもしれない。
でも、僕のそばにはハルくんが居てくれた。
ハルくんに抱きしめられながら、シゲルさんからの最後の文章を読んだ。
あの家からは、仕事で必要な物だけを持ってきた。
それ以外は、全部捨てた。
彼との思い出が少しでもある物は、二度と見たくなかったから……
これでハルくんに捨てられたら……僕は路頭に迷うしかなくなってしまう。
Ω専用の精神病棟に入るためのお金もないから、その入院資金を集めるために身体を売るしかないと思う。
でも、多分そんなことをしているうちに、僕の生命 なんて消えちゃうと思う。
番 に捨てられたΩが、ひとりで過ごす発情期 に耐えられないから……
どれだけ頑張っても、衰弱死は免れないと思う。
病院のベッドで死ぬのも、道端で死ぬのも一緒だと思ってた。
「……ミツ、ここに居ていいから。俺はミツに、ここに居て欲しい」
ハルくんが客間だった部屋を僕専用の部屋にしてくれた時に言われた。
「部屋が余ってたから客間にしてただけだから、ミツに使って欲しい。俺が帰る場所になって欲しい。……俺の気持ち、重くて嫌かな?」
ハルくんにこれ以上迷惑をかけたくなかったから遠慮したのに、好きな人にあんな懇願をされたら拒否なんてできないよ。
ハルくんは、自分がイケメンだって自覚を持って欲しい。
僕じゃなくても、誰だって拒絶できないでしょ?
住むところはできたけど、不安がなくなったわけじゃない。
あれからまだ発情期 はきていない。
でも、次の発情期 がきちゃったら……どうなるのかわからない。
抑制剤の投薬は止められてるから、どうなるのかわからない。
ただ、死が近づいているのだけは何となくわかった。
もう身体が保たないって……
番 に捨てられたΩが、新しい番 を作れるのかはわからない……
聞いたこともないし、僕みたいに不義理なΩが少ないからかも……
そもそも、新しい番 を作る前に番 に捨てられたΩは生命を落とすらしい。
この前の僕みたいに、心も身体も壊れて……
最後は衰弱死するか自死を選ぶんだって……
それが、捨てられたΩの最後。
そう、なりたくないな……
死ぬにしても、ハルくんの側がいいな……
ズキンッ
今まで感じたことのない激しい痛みがうなじに走る。
高圧の電流を流されたようなバチバチとする痛みと真っ赤に焼けた火箸でも当てられたような熱さ。
痛くて、熱くて、苦しくて……
普通に座っていることもできなくて、前屈みになってうずくまる。
「っ……あ、……ッうぅぅ、ぐぅ……ゃだ。ヤダ……死にたく、ない……」
痛過ぎて呼吸がうまくできなくて、これで死んじゃうんじゃないかって思った。
頭を過ぎるのは、いつものハルくんの笑顔だった。
死ぬなら、最後にハルくんに会いたい。ハルくんに会ってから死にたい。ハルくんのそばで、死にたい……
どれくらいの時間、痛みを堪えていたのかわからない。
1分だったのか、10分だったのか、もっと長かったのか……
痛みは引いてきたころには、全身汗でびっしょりになっていた。
「な、何だったんだろ……あ、アツ、熱い……」
痛みが引くと同時にお腹の奥が熱く疼く。
今までにも何度も経験したことのある感覚。
ずっとコレが始まるのを怯えていた。
もう二度ときて欲しくなかった、Ωの習性。
「こわい……。ヤダ……、ヤダよ……ハルくん……」
震える身体を抱き締めながら寝室へと向かう。
部屋に入った瞬間、ハルくんの匂いに鼻がヒクヒクとひくついた。
「……ごめん、なさい。ごめんね、ハルくん」
匂いがする方に身体が無意識に向かってしまう。
クローゼットを開くと、綺麗に衣類が掛けられており、吸い込まれるように中へと誘われてしまった。
こんな場所で、番 でもないのに、彼の服に包まれたくてしかたない。
ハルくんの匂いを全身で感じたい。
お腹、奥……熱い……
クローゼットの中に入り、掛けられていた服や綺麗に畳まれていたシャツやズボンを集めて抱き締めてクローゼット内に巣を作る。
シゲルさんの服を集めて、番 の匂いがしない巣を作っていた時と違い、ハルくんの匂いに包まれているだけで安心する。
でも、身体の熱が収まることはない。
「はぁっ……はぁっ……ハルくん。ハル……」
抱き締めたワイシャツに顔を埋めているだけなのに、触ってもいない股間が反応してしまう。
後ろも物欲しげにヒクついてしまい、濡れているのがわかる。
ズボン、濡れちゃう……
手をそっとズボンの中に差し入れ、アナルに触れるとクチュッと濡れた音が響いた。
簡単に指先が熱いナカに飲み込まれ、軽く擦るだけで達してしまいそうになる。
ハルくんに抱いてもらったあの日から、自慰すらしていなかったのに、ナカは柔らかくヒクついているのがわかる。
欲しい。
ハルくんのおっきいので、ナカ擦って欲しい。
ハルくんので奥まで満たして欲しい。
元番 を求めて自慰をしていた時は、痛みしかなかった。
ナカを指でぐちゃぐちゃに掻き回しても不快感しかなかった。
でも、ハルくんの匂いを嗅いでるだけで今は違う。
指を2本挿れても痛くない。むしろ、もっと太いモノが欲しくてしかたない。
クチュッ、クチュッ……と濡れた音をクローゼット内に響かせながら自慰を繰り返す。
アナルを犯す手とは反対の手でペニスを擦り上げるも、イクことができない。
「ふぁっ……ァッ、んんぅっ……は、はる……くんっ……ハル……」
ハルくんのシャツを咥え、ハルくんだけの匂いに包まれる。
指をナカでバラバラに動かし、前立腺を擦り上げるもなぜかイクことができなかった。
「んぁっ……ゃ、なんでっ……イけない。ハルくん、ハルくん……ハルくん……」
うわ言のように何度も彼の名前を口にした。
目を閉じていても愛しいα の顔が浮かび、トロトロに蕩けた穴を犯し続けた。
アナルから滴り落ちた愛液と先走りのせいで彼の服にシミを作ってしまうものの、自慰行為を止めることができなかった。
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