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第6話
「クライド様。いったいその恰好は……」
朝、執務室へやってきた公爵はシャツのボタンを開け、胸元を覗かせていた。
「寝起きのサイラス様よりひどいじゃないですか。どうしたんです?」
いつも身だしなみはきちんとしている人なのに、何事だろうと眉を顰めて尋ねると、彼はどことなく恥ずかしそうな空気を漂わせながらボタンを嵌めだした。
「……ちょっと魔が差したんだ……」
「はあ」
「なんでもない。気にしないでくれ」
彼は服装を整えると、自分の椅子にすわり、いつもの調子で話しかけてきた。
「ユーイン。来週、コフィ伯爵家に行く予定が入っていただろう。その帰りに領内のイーガン地区に立ち寄ろうと思うのだが、あなたにも一緒に来てほしい」
「私もですか。どのような理由でしょうか」
「視察だ。執事の職務には領地の管理もあるだろう。書面だけでなく実際に現場も見てほしいと思ってな」
主人が外出するときは、執事が屋敷を預かるものではないのだろうか。
特殊な事情でもあるのだろうかと思って返事が遅れたら、公爵がズモモモと不穏な気配を漂わせてきた。
「嫌か。一緒に視察に行くのは契約外というなら、出張料金を別に支払う。もちろん口約束じゃなく、いますぐ書面で契約する」
初日に契約書だとか要求したせいか、細かくてガメツイ奴だと思われているようだ。細かいことは否定しないが、お供するだけで出張料金までは要求しないぞ。
「過分なお給金をいただいていますし、たしかに執事の職務に領地の管理は含まれていますから、出張料金などはいりませんが…視察はどういった目的なのかと思いまして。私を連れていく、特別な事情があるわけではないのですね」
「……ああ。鉄道工事の進捗を見に行くだけで、ついでにあなたもと思っただけだ。領地の把握に役立つだろう」
いつも俺をまっすぐ見て喋る彼が、少しだけ目を逸らし、少し言い淀んでから言い訳のようにぼそっと答えた。
なにか他意があるのかとちょっとだけ思ったが、気のせいだろうと流した。
コフィ伯爵家へ行く予定は一泊だったはずだ。遠方なので汽車を使う。特別な役割はなく、ついていくだけなら旅行みたいでいいかも。
了承し、契約書というか出張命令書を書いてもらった。金銭は要らなくても、トラブルがあったときに困るので書面は欲しい。
俺のこういうところが、リスク管理がしっかりしていると評価されるか、いちいち細かくて面倒くさい奴と言われるか、相手によって評価が分かれるところだろう。子爵家では後者だった。
文面に目を通したあと、そう言えば、と思った。
たしか小説で、公爵が最初に銃撃されるのは汽車で出かけたときだった。
もしかして、これか?
てことは、俺も巻き込まれる可能性があるじゃないか。深く考えず、気楽に了承してしまったぞ。
どうしようかと思ったが、やっぱり行きませんとも言えず、心の準備をしておくことにした。
そして当日を迎えた。早朝、護衛二人は馬で、俺と公爵は馬車で駅へ向かう。
馬車に乗り込み、向かいあってすわると、公爵が圧をかけて俺を見つめてきた。
最近思うんだが、公爵は黙って俺を見ていることが多い気がする。ほかの使用人がそばにいても無言で見つめていることはないし、用事があればすぐに話しかけている。
人間不信だから、新入りの俺を警戒して観察しているのかもしれない。
そうわかっていても、なんだか落ち着かない気分になる。
俺が目を向けると、公爵が少し圧を和らげて話しかけてきた。
「ユーインは、汽車に乗った経験はあるか」
「はい。昨年、子爵のお供で王都へ行った際に。今回が二度目なので楽しみです」
「そうか。子爵家からだとオーデン経由だな。今回は路線が違うから、また違う景色が楽しめるだろう。ポーモントを過ぎた辺りに桜並木のトンネルがあって――」
公爵から少し圧が弱まる。それを皮切りに、これから向かう地や汽車の話題がしばらく続いた。
公爵とは普段は仕事の話しかしない。
今回の道中も仕事の話しかしないだろうし、もしかしたらずっと会話はないかも、などと思っていたが、意外にも公爵は饒舌だった。
久しぶりの汽車旅で、機嫌がいいのかもしれない。
小説から得た情報だが、公爵は汽車が好きなのだ。好きだから趣味と実益を兼ねて鉄道事業に力を入れている。人に趣味を聞かれると「金儲けだ」などと嘯くものだから拝金主義者と思われているが、本当はただの鉄オタなのだ。
その大好きな鉄道旅に俺を誘ってくれたのは、仕事とはいえ、ちょっと嬉しいかもしれない。
俺はこれから起きる事件を思い緊張していたが、気づけば公爵につられて会話を楽しんでいた。
すぐに駅に到着し、馬車を降りると、案内役の駅員が待ち構えていた。レンガ造りの駅舎は予想していたより大きく、人も多い。王都の駅と同等の規模と賑わいだ。
公爵家の御膝元の駅なのだから思えば当然だ。公爵のあとについて護衛と共に駅舎へ入り、駅員の案内で目的のホームへ進む。駅舎も汽車も、この国では最先端。だが前世の記憶のある俺の目にはどことなくファンタジーでレトロな雰囲気に映り、わくわくしてしまう。
一般客とは別の、オーナー専用の特別車両に乗り込むのは俺と公爵のみ。護衛二人は扉の向こうに待機している。
車両一両貸し切り。贅沢だ。
車内はホテルのラウンジのような雰囲気で、座席は長くゆったりとしたソファになっている。公爵が奥側の真ん中付近にすわったので、俺は端の出入り口付近に腰を下ろした。すると、
「そこだと遠くて話ができないだろう。もっとこっちに来てくれ」
こっちにこい、じゃなくて、来てくれ、なんだよな。
公爵はいつもそうだな、なんて思いながら、もう少し傍にすわりなおした。すると公爵が俺のすぐ隣に移動してきた。やがて汽笛が鳴り汽車が動きだす。
汽車旅は庶民には贅沢なものだ。前世で電車に普通に乗っていた俺でも高揚する。
襲撃は汽車から降りた時なので、乗車中は問題ない。俺たちは馬車での会話の続きを再開した。
公爵は博識だし、庶民の俺を見下した態度をとらないから楽しく会話ができ、自然と笑みがこぼれた。
貴族は大概偉そうに威張っているから極力関わりたくないし、話したくないと思っていた。公爵も初対面時は偉そうに見えた。だが知ってみると、じつはそうじゃない。俺への言葉遣いはいつも依頼形で、命令形じゃない。物を頼むときは、俺の意思を確認してくれる。彼の人としての優しさとか、相手を尊重する気持ちが感じられ、そういうところに好感が持てる。初対面時に覚えた反感は、いつのまにか消えていた。
汽車のこと、領地のこと、鉄道事業の今後のビジョンなど、話題は尽きない。数時間が瞬く間に経過し、昼食の時刻になった。
駅弁ではない、皿に盛られた肉料理やスープが食卓に運ばれてくる。俺も一緒に食べるよう言われ、公爵の向かいの席についた。
食事をはじめると、公爵は急に無口になった。食事中は喋らないタイプかなと気にせずにいたのだが、チラチラと俺に視線を寄越し、こちらの様子を窺ってくる。なんだろう。
「なにか、ご相談でもありますか」
尋ねてみたら、彼はやや硬い顔で頷いた。
「相談ではないが……。一度、確認しなければいけないと思っていたんだが…」
「なんでしょう」
「………恋人は、いるだろうか」
「え」
「いや、強引に雇ってしまっただろう。あなたは独身と聞いているが、もし地元に恋人がいたら、すまなかったと思って。そう簡単に帰れる距離でもないから」
なんだ、そんなことか。
「恋人などおりませんのでお気になさらず」
「…そうか。恋人でなくても、好きな相手は」
「それもいないです。大丈夫ですよ」
「そうか」
公爵はホッと息をつき、グラスに口をつけた。
今世で恋愛をしたことはなく、恋人がいたこともない。
たまに言い寄られたことはあるが、すべて断っていた。
なんというか、この世界の女性は好みじゃないんだ。外見は俺より逞しい人が多いし、気性も激しい人が多くて、性の対象として見ることができない。
どちらかといえば日本女性みたいに小柄なほうがいい。といっても、前世でも恋愛経験はないに等しい。学生の頃に告白されてなんとなくつきあったことはあるが、あれを恋愛と呼ぶのは違う気がする。性体験はキスが一回だけ。彼女といるより漫画や小説を読んでいたほうが楽しかった。
恋愛はタイパコスパが悪すぎる。性欲はあるが、自慰でいい。
俺は恋愛に限らず、生身の人間にあまり興味を持てないタイプらしい。漫画や小説が好きで、物語内のキャラには興味を持てるんだが。
生身の人間は内心でなにを考えているかわかりにくいが、物語ではキャラの心理が詳しく描写され、その人物を理解しやすいためかもしれない。そういえば、前世の初恋も漫画のキャラだった。
そういう点では公爵も、小説の登場人物と気づいてからは非常に親しみを持っている。
「ところで恋愛の話が出たので、ついでに聞きたいんだが。同性同士の恋愛について、どう思う」
「同性?」
「いや、これは友人の話なんだが、同性を好きになったらしいんだ。同性の恋愛など聞かない話だから、世間的にどうなのかと思ってな。私は偏見はないつもりなんだが、聞いたときは少し驚いて」
友人の話という前提で切りだされる場合、それって自分のことでは? ということが多いが、公爵の場合はそのうち令嬢と恋に落ちるはずなので違うだろう。
しかし人間不信の公爵にそんな恋愛話ができる友人がいるんだな。まさかグリーンカレーじゃないだろうな。などとよけいなことを頭の隅で思いつつ、首を傾げる。
この国の宗教はキリスト教的で、同性愛を禁じているし、国も同性の結婚を認めていない。しかし同性のカップルはたまにいて、しかも結構オープンに交際している。
「はあ。私も偏見はないですね。よく聞くってこともないですが、たまに聞きますし。本人たちがいいなら、べつにいいと思いますけど。貴族の方々はわかりませんが、庶民の間では、普通に受け入れられているのではないでしょうか」
「そうか…だったら…よかった」
公爵はなぜか嬉しそうに、口元をかすかに綻ばせた。
その表情に、俺の胸がドキリと跳ねた。
いつも睨みつけるような険しい表情ばかり見ていたから新鮮で。そんな顔もできるとは知らなかった。
いや、これは……すごい。そりゃあ笑わなくなるよなと思った。
ちょっと口元を綻ばせただけで、この破壊力。
うっかり笑顔なんて見せた日には、令嬢たちが放っておかないだろう。人間不信の公爵には煩わしいだけだ。
イケメンってすごいなと動揺する俺の心など知らず、公爵は機嫌よさそうに話題を変えた。
その後の話題は主に俺のことだった。仕事以外で興味があることを聞かれたので最近読んだ本の話をし、それから好きな酒や食べ物など、他愛ないことを喋った。
食事を終えると、彼は元いた場所に戻り、寛いだ様子で車窓を眺めたり新聞を読んだりしていた。俺も車窓を眺める。
汽車が途中駅に停車し、おめかしした母子が乗車する姿が見えた。嬉しそうな女の子の表情を見て、これから起きる事件が気になりだす。
本当に、小説のように襲撃されるんだろうか。
汽車が動きだす。
目的地は次の駅。
襲撃されても公爵は無事だから、手出しは無用と考えていた。だが、小説には周囲の詳細など書かれていない。もしかしたら流れ弾が当たって怪我をする客がいるかもしれない。俺だって巻き添えを食うかもしれないんだ。いま乗車した女の子だって、無事だったとしても怖い思いをするだろう。
今になって、対策を考えておけばよかったと後悔の念がよぎる。
いや、多少は考えたんだ。出発日を変えるとか。でも、変更してもどうせ情報が漏れるだろうな、と思ってしまった。
それから、事前に危険があることを公爵に伝え、護衛を増やすことも考えた。匿名の手紙が届いたと伝えれば、俺が事前に知っていても不自然じゃない。だがその手紙を見せろと言われたら困る。下手に偽造でもして、それがばれたら、俺が怪しまれるしなあと思ってやめた。
俺が未来を知っているのはおかしいという思いもあり、積極的になれなかったが、もっと真剣に考えておくべきだった。
襲撃は今日じゃないかもしれない。小説とは違うかもしれない。わからない。けれど、いちおう保険をかけておこう。俺は立ち上がり、トイレへ行くふりをして特別室の扉を出た。
扉を出るとすぐそこに貴賓専用の化粧室があり、手前にある座席に護衛がすわっている。その護衛に声を潜めて話しかけた。
「バゥアーさん。耳に入れておきたいことがありまして」
俺に合わせて、護衛も小声で応じる。
「なんでしょう」
「じつはこの汽車を降りたホームで、クライド様を銃撃する計画があるという密告がありました」
「なんですって。どういうことです?」
「確かな情報ではなく、いたずらの可能性が高いです。でも万が一のために情報を共有しておくべきだと思い、伝えています。クライド様がこの旅を楽しみにしている様子でしたから、水を差したくなくて、ご本人には話していません。念のため、汽車を降りてから気をつけてください」
護衛は険しい顔つきをして席を立った。そして公爵のいる特別室に入り、一礼して小走りに通り過ぎる。
車両の反対側に控えているもう一人の護衛に話しに行くのだろう。彼のあとに続いて俺も元いた席に戻った。
「なにかあったか」
「いえ…」
確証のない話だし、公爵には言わないつもりだったのだが、護衛の緊張した気配から異変を察しただろう。
「じつは、確かな情報ではないのですが――」
結局、先ほど護衛に話した内容を打ち明けた。
話を聞き終えるなり公爵は「なるほど」と顎に手を当て、車掌を呼んだ。そして簡潔に告げる。
「我々が降りる予定のデイリード駅に、不審者がいるという情報がある。狙いは私だ。停車時間を予定より延長してくれ。客の乗降がすべて終わり、ホームに誰もいなくなってから私たちは移動することにする。馬車までの安全確保を頼む」
「承知いたしました。駅に連絡いたします」
車両から出ていく車掌の背中を見送り、俺は目から鱗な気分だった。
そうかー。
ちょっと考えれば当たり前な気もするが、俺には自分たちで対処するということしか頭になかった。電車の運行に迷惑をかけると損害賠償を請求されるという前世で得た知識がよぎり、汽車には迷惑をかけないようにと考えていた。車掌に指示するとか駅員たちを動かすとか汽車の停車時刻を操作するとか、そんな発想はこれっぽっちもなかった。さすが公爵、人を動かすことに慣れている。この鉄道のオーナーだしな。
公爵が落ち着いた様子で俺に尋ねる。
「その情報はどうやって入手した」
「…クライド様宛の無記名の手紙です」
見せろと言われたらすでに破棄したと答えようと思っていたが、それ以上は聞かれなかった。
その後は無言の時間が続いた。
やがて汽車の速度が落ち、駅に到着した。
いよいよだ。緊張が高まる。
地方の小さな駅にもかかわらず、ホームにはたくさんの駅員が待機していた。警備や非番の者も呼んだのか、二十人以上いそうだ。汽車を待つ客も二十人くらい。
乗客が降り、ホームの客が乗り込む。その様子を車窓から眺めていると、ホームの後ろの方に佇んでいる背広の男に気づいた。乗客ではなく、誰かを待っている様子。
駅員の一人がその男に気づき、近づいた。なにか問答した直後に男が走りだしたため、駅員二人がかりで取り押さえた。騒ぎにはならず、捕縛されて連れ去られていく。
ホームに客の姿はなくなり、駅員だけとなった。
「不審な男を捕縛しました。懐に銃を所持していました」
駅長の報告を受け、公爵が立ちあがる。
「行くか」
「はい」
よかった……。
やっぱり、襲撃犯はいたんだ。
小説では、客のごった返すホームで発砲されて乱闘となっていた。もし公爵に伝えていなかったら、小説通り大変な騒ぎになったはずだ。
未然に防げてよかった。
「お伝えしてよかった…」
改札を出ながらぽつりと呟くと、前を歩いていた公爵が振り返る。
「ああ。あなたの判断のお陰で命拾いした。ありがとう」
「なにをおっしゃいます。クライド様の判断とご指示が――」
俺の視線の先、駅舎の影から中年の男が飛びだした。手には銃。
うわ。もう一人いたのか。銃口が公爵へ向けられる。
「危ない!」
俺はとっさに公爵を突き飛ばした。パンっと弾ける音と共に右腕に熱い衝撃。
「ユーイン!」
痛い。腕を押さえて蹲る。
あああ。やっぱり巻き添えを食らってしまった…。ていうか、つい自分から危険に飛び込んでしまったよ…。
傍にいた駅員と護衛がすぐに動き、犯人を取り押さえた。
「ユーイン! ユーイン! しっかりしろ! 救護室はどこだ!」
公爵が俺を抱きかかえて立ちあがる。お姫様抱っこだ。いつも冷静で物静かな彼の、激しい表情と大声と予想外の行動に、びっくりする。
俺も撃たれた衝撃で興奮しているが、公爵のいつにない態度のせいで少し冷静になった。痛いし血も出ているけれど、たぶん、そんなたいしたことはない。
「クライド様、大丈夫です」
「大丈夫なわけがないだろう! 撃たれたんだぞ!」
「ですが、そこまで重症な感じはしないので…」
って、聞いてないな。
公爵は蒼白な顔をして俺の訴えを無視し、救護室へ直行した。
怪我をしたのは右上腕。傷を見ると、弾丸が掠ったようだが大怪我というほどでもない。一針だけ縫った。
手当て中、公爵はずっと悲愴な顔で俺を見つめていた。処置が終わると着替えに手を貸し、まるで令嬢をエスコートするように付き添い、俺の一挙一動に注意を払いながら馬車まで行き、乗り込むと自分の顔を手で覆って項垂れた。
「すまない……私のせいだ……あなたを連れてくるべきじゃなかった……」
「なにをおっしゃるんです。クライド様も見ましたでしょう。たいした傷じゃないですから」
「運がよかっただけだ。撃たれたあなたを見た瞬間、私は……」
公爵が言葉を詰まらせる。うん。確かに運がよかった。今思うと、俺の行動は無謀だったし、ゾッとする。でも結果としてたいしたことなかったんだし、そんなに気にしなくていいのに。
「クライド様が無事でよかったです」
笑みを見せてそう言うと、公爵が俺へ視線を向けた。その瞳は少し潤んでいた。
「あなたは、本当に……」
公爵は唇を噛みしめ、なにかを堪えるような顔をして言葉を吞み込んだ。そしてズモモモといつもの不穏な気配を漂わせた。
「首謀者は必ず見つけだし、私が息の根を止める」
「いや…、まあ、そうですね。元はクライド様を狙ったわけですから」
襲撃したのは雇われた者。今回の首謀者は公爵の弟サイラスの信奉者だ。
普段はサイラスの友人面をしているが、ちょっとおかしいんじゃないかってくらいサイラス推しの男で、サイラスが公爵になるべきだと思っている。
サイラスは、この件には全く関与していない。信奉者がサイラスには黙って勝手にやったことだ。だが公爵はサイラスの差し金と疑い、兄弟仲が一気に険悪になっていく、というのが小説の流れだ。
首謀者の名前は小説に出ていたかもしれないが覚えていない。信奉者が誰なのかわからなかったが、今日の犯行者がいずれ依頼者の名を白状するだろう。公爵がサイラスを誤解しないように口添えできるといいかもな。そうしたら後々の兄弟間のトラブルも回避できる。
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