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8.
歯ブラシを持つ手が止まり、今にも泣きそうな自分の顔を見ていた時、隣にひょこっと大河が現れ、その突然のことに驚きでむせた。
軽くゆすいだ後、「大河、どうしたの」と訊ねた。
すると大河は持っていたあいうえおボードで『はみがき』と押した。
「はみがき⋯⋯あ、歯磨きしに来たんだね。寝る前だもんね、じゃあしようね」
言い聞かせるように言う姫宮に、「ま⋯⋯ま⋯⋯」と首を傾げて不思議そうな目で見てくる。
大河にとっては歯磨きしに来たのに、姫宮は驚きを隠せずそのような言い方をしたのが気になったのかもしれない。
「ママのことは気にしないで。歯磨きしようね」
促すように大河用の歯ブラシに歯磨き粉をつけてあげて、それを渡した。
まだ納得してない様子の大河であったが、姫宮の渡された物に目線を落とした。
が、すぐに受け取らない大河に「今日もしてもらいたいの?」と訊いた。
すぐにうんと頷いた。
苦笑した。
歯磨きも小口に煽られていたのもあり、率先していたというのに甘えてくるようになってからというもの、それも姫宮がやるのが当たり前になっていた。
「もう、大河ったら⋯⋯」
早速口を開けて待っている大河の顎に手を添えて歯を磨き始めた。
磨いてあげている最中、大河は上機嫌なようで嬉しそうな顔をしていた。
先程の何を考えているのか、はっきりと分からないような顔から一変して見られた表情に、姫宮も自然と綻ばせる。
「──あ、また大河さまはママさまにやってもらっているんですかぁ?」
「はい、いーってして」と言っている時、背後から小口の声が聞こえた。
思わずその声の方へ振り向くと、小口がそばにやって来た。
「全く大河さまは、ママさまに褒められたくて自分であれこれやっていたというのに、これじゃあまるでなにもできない赤ちゃんみたいですね」
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