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「そういえば、御月堂さまに誕生日のこと聞かれてましたよね」 「はい⋯⋯」 不意を突かれたかのようにその話題を振られ、身体を強ばらせた。 「大河さまの誕生日を祝ったばかりなのに気が早いなと思いましたけど、その気持ちは分からなくもないですけどね」 「御月堂さまと気が合うなんて、びっくり過ぎますけど」と言う小口は続けてこう言った。 「推しの誕生日が分かっていれば盛大にお祝いしたくなりますし、そうでなくてもお祝いしたくなるんですよ。この世に産まれてきてくれてありがとうございます、推しのおかげで今日も生きていられます、生きがいですって」 「はぁ⋯⋯」 推しというのは、キャラや俳優など「人に勧めたいほど好きで応援したい」というものらしい。 「ですから、御月堂さまにとって推しである姫宮さまを祝わずにはいられないってことです」 「そう、ですか⋯⋯」 大仰なことを言われると自分がそこまでの価値ある人間とは到底思えないため、そんなに祝ってくれなくてもと思ってしまう。 「何はともあれ、素直に祝ってもらえばいいんじゃないんですか? 御月堂さまなら張り切ってしてくれそうじゃないですか。なんかものすごい料理とか天井まで届きそうなケーキとか夢がありません?」 「そうですね⋯⋯」 小口が言うことは大げさではない。 御月堂であれば実現してしまいそうな現実的な話だった。 そんなにも盛大にやってもらっては申し訳なさが立つが、「自分が食べたい」と顔に書いてある小口を見ると、自分の誕生日で誰かが喜んでくれるなら祝ってもらいたい気持ちにはなる。 しかし大河はどうなのだろう。 御月堂がそんなにも豪勢なものを出してしまったらむくれてしまうだろうか。それとも、我が子なりに張り合って何かしてしまうのだろうか。 予想だにしない我が子の行動がどうか悪い方向にいきませんようにと思いながらも、この件よりも自分の誕生日を思い出さないといけないことが祝ってもらう以前の問題だった。

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