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「入りますよー」とどうぞと言う前に入ってきたのは、小口だった。 珍しくパジャマ姿ではない彼女が挨拶し、そして姫宮のことをちら見した後、こう言った。 「あ、大河さま、またママさまを困らせるようなことをしたんでしょ。服を持って行ったと思ったら、ママさまに着替えさせてもらってはダメじゃないですか。そんなことをしていると御月堂さまに笑われますよ」 いつもの眠たそうな目つきで半ば呆れている口調だった。 そう言われて大河は途端硬直したかのように動かない。 が、急に小口の方へ走り出したかと思えば両手を振り上げて、彼女のことを殴りつけたのだ。 「痛っ、痛っ!」 「ちょっと大河⋯⋯!」 咄嗟に止めに行こうとした時、「姫宮さま大丈夫ですから」と制止された。 どうしてと思ったのも束の間、痛がる素振りを見せながらも大河のことを抱き上げ、そのまま部屋の外へと行ってしまった。 「大丈夫かな⋯⋯」 心配な気持ちが心に降ってきたが、何度かそのような場面に遭遇した時、小口は何とかおさめてきたからきっと大丈夫だろう。 それよりも今は一人になったのだから、さっさと着替えなければと裾に手をかける。 大河がやろうとしたこと、姫宮が大河にやってしまったことが脳裏に過ぎる。 小口が大河に言ったことに対し、そういえば自分でやらせようと思っていたのに、いつもの流れでやってあげてしまった。 大河のために言うべきかもしれないが、姫宮も知らなかった目論みがあったとはいえ、再会するまで普通の環境で育てることができなかった罪悪感があり、こうも強く言えない。 だから言えないだろうと思って、小口は代わりに言ってくれている。 しかし、いつまでもそれに甘えているわけにはいかない。 「親、失格だな⋯⋯」 親って、どうしたらなれるのだろうか。 子どもの手本となるような親って、どうしたらなれるのだろうか。 その疑問は氷解することはなく、鬱々とした気持ちに沈んでいくのだった。

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