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「大河、さっきと違うからね。隣の椅子に座ってね」
隣の椅子を叩いて促してみせるが、頑として動かない。
「大河⋯⋯」
「最近はママにべったりだねぇ。ママのこと大好きだねぇ」
笑顔を崩さない先生にそっぽ向いた大河は姫宮にしがみついては頬を擦り寄せた。
「大河、ここではしないでって⋯⋯」
「大河君はそうしたいんだよね。いいよ、そのままお話ししようか」
「すみません⋯⋯」
「いえ、いいんですよ。大河君が安心していられるところで言葉を発するきっかけに繋がるかもしれませんし、大河君の好きにさせましょう」
「はい、ありがとうございます」
先生の真摯に大河に向き合う姿に、その言葉に頼ろうと思った。
だが、大河が話すことはなかった。
ボードを介して先生と話してもらおうと持たせようとしても持とうとしないし、先生が「最近楽しかったことはあるかな?」「お絵描きをするのが好きなんだね。何を描いているのかな?」「その着ている服、可愛いね」と話しかけてみても、うんともすんとも言わず、反応しているといえば、首を横に振るのみだった。
さすがの先生も苦笑混じりの顔を見せていた。
「今は先生と話したくないのかな。じゃあ分かった。あっちのお部屋で大河君の好きなことをしてきていいいよ」
「⋯⋯」
それは姫宮と二人きりになって話したいことがあるという合図だ。
しかし当然のことながら大河は、看護師が開けてくれた部屋に行こうとはせず、離れたくないとさらにしがみつく。
「大河⋯⋯」
「やっぱり、ママと離れたくないよね。ごめんごめん。じゃあ今度はお母さんに最近の大河君のことを聞きましょうか」
姫宮のことを見た時、安心させるような笑みを見せた。
最近の大河のこと。
昨日の出来事が脳裏に過ぎる。
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