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「⋯⋯少し、喋れるようになったんです」 「喋れるように。そうだったんですね」 「喋れる、というより、言葉を発した感じなのですが。⋯⋯その『ママ』と」 「最初にその言葉が聞けて良かったですね」 「⋯⋯はい、本当に」 そう言うのが精一杯だった。 「その発したきっかけを聞いても?」 「はい」 昨日の大河の誕生日であった出来事をぽつぽつと伝えた。 先生は「そうなんですか」とにこやかに笑った。 「自分の誕生日を祝ってもらえて、他の人達と共に大好きなママから自分の好きな物を贈られて、その嬉しい気持ちが現れたのかもしれませんね」 姫宮からもらった贈り物を開けるのを惜しいと思っていたほどだ。きっとそうだろうと姫宮自身も思っていたことだが、その心中に思っていたことが言語化されたことで、あの時の感情が溢れそうになり、それを何とかぐっと堪える。 「そっか、大河君の誕生日だったんだね。大河君、誕生日おめでとう。何歳になったのかな?」 「⋯⋯」 覗き込むように訊ねる。 しかし、何も聞こえなかったように見向きもしなかった。 何とも言えない苦笑混じりの声を漏らす先生と思わず顔を見合わせた。 「⋯⋯えー、他に何か気づいたことはありますか?」 「あ、えと⋯⋯他は、ものすごく甘えてくることですね」 「そうですよね。少し見ない間にそんなにも大河君が離れたくなさそうにするなんて、どんな心境の変化なんでしょうか。それもそうなったきっかけは分かりますでしょうか」 そうなったきっかけ。 その時の記憶を手繰り寄せる。 「どこまで関係があるのかは分かりませんけど⋯⋯私、この子と一緒に暮らせなかった時があったんです。それで、その間のことを知っている方の話を聞いて、私自分のことを責めたからかもしれませんが、知らないうちに泣いて⋯⋯。それから発情期(ヒート)になってしまいまして。あんな姿を見せてしまったこともあって、不安にさせたのかもしれません。それと元々私のことが大好き、みたいなのでこの子なりにそれを表現をしているのかな⋯⋯と」

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