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22.
「ただいま戻りました」
中に入り、そう告げると奥のリビングの方から足早とやって来た安野が、姫宮の顔を見た途端安堵した顔を見せた。
「ああ、おかえりなさい姫宮様! いつもより帰りが遅かったので、どうされたのかと思いました」
「先生と話すことがあって⋯⋯。ご心配おかけしました」
「いいえ! こうして無事に帰ってきたのですから。久々に外に行かれてお疲れでしょう。夕食まで時間がありますし、ひと休みなさってください」
「はい。ありがとうございます」
夕食を一緒に作りたい気持ちはあったが、ゆっくりとしたい気持ちも正直あった。
大河とゆったりまったり過ごしていようか。
「大河。靴を脱いだら、手を洗おうね」
安野と話している間にも足にしがみつき、離れずにいた大河に声を掛けると、大河用の座るスペースに座った。かと思うと、靴を見つめたまま動かなくなった。
これはまた。
「大河様、またお母様に脱がせてもらいたいんですね」
「⋯⋯大河。出かける時はママが履かせたけど、今は自分で脱ごうね」
「⋯⋯」
何にも反応をせず、まるで石像のように動かないままだった。
「大河⋯⋯。ママじゃなきゃ嫌なの?」
「⋯⋯」
強く頷いた。
「⋯⋯」
困り果てた。どう言ったら自分でやってくれるのか。
どうしたらいいのだろうと悩んでいると、安野が言った。
「大河様、ハニワのお靴が靴箱のおうちに帰りたがっているみたいですよ。お別れは寂しいですけど、ばいばいしましょうね」
「⋯⋯」
顔を上げた大河がキッと安野のことを睨んだ。
安野が話しかけたことが気に入らないのか、それともハニワの靴がそんなことを言ってないと訴えているのか。あるいは両方か。
しかし、そんな目に安野は変わらずにこやかな顔をしていた。
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