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「ただいま戻りました」 中に入り、そう告げると奥のリビングの方から足早とやって来た安野が、姫宮の顔を見た途端安堵した顔を見せた。 「ああ、おかえりなさい姫宮様! いつもより帰りが遅かったので、どうされたのかと思いました」 「先生と話すことがあって⋯⋯。ご心配おかけしました」 「いいえ! こうして無事に帰ってきたのですから。久々に外に行かれてお疲れでしょう。夕食まで時間がありますし、ひと休みなさってください」 「はい。ありがとうございます」 夕食を一緒に作りたい気持ちはあったが、ゆっくりとしたい気持ちも正直あった。 大河とゆったりまったり過ごしていようか。 「大河。靴を脱いだら、手を洗おうね」 安野と話している間にも足にしがみつき、離れずにいた大河に声を掛けると、大河用の座るスペースに座った。かと思うと、靴を見つめたまま動かなくなった。 これはまた。 「大河様、またお母様に脱がせてもらいたいんですね」 「⋯⋯大河。出かける時はママが履かせたけど、今は自分で脱ごうね」 「⋯⋯」 何にも反応をせず、まるで石像のように動かないままだった。 「大河⋯⋯。ママじゃなきゃ嫌なの?」 「⋯⋯」 強く頷いた。 「⋯⋯」 困り果てた。どう言ったら自分でやってくれるのか。 どうしたらいいのだろうと悩んでいると、安野が言った。 「大河様、ハニワのお靴が靴箱のおうちに帰りたがっているみたいですよ。お別れは寂しいですけど、ばいばいしましょうね」 「⋯⋯」 顔を上げた大河がキッと安野のことを睨んだ。 安野が話しかけたことが気に入らないのか、それともハニワの靴がそんなことを言ってないと訴えているのか。あるいは両方か。 しかし、そんな目に安野は変わらずにこやかな顔をしていた。

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