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25.
「それは⋯⋯良かったです⋯⋯」
苦笑いをしていた。
と、その時、ぽすっと軽い衝撃を感じた。
目線を落とすと足にしがみつく大河が見上げていた。
「⋯⋯ま⋯⋯」
「大河、お手洗いしてきたの?」
うん、と頷いた大河が得意げに手の平を見せてきた。
「えらいね」
頭を撫でるとふふんっと鼻息を荒くした。
微笑ましげに見ていると、大河が手を引っ張ってきた。
「えっ、え、どうしたの」
戸惑っていると、大河が洗面所を指差す。
姫宮も手を洗いに行ってということなのだろう。
前のめりになる大河に「分かったから、引っぱると危ないよ」と窘めながらも、靴を慌てて脱ぎつつ、同じように前のめりになりながらも大河について行った。
洗面台まで引っ張られると、大河は足踏み台に乗り、蛇口をひねり、出てきた水に握っていた姫宮の手を差し出した。
自分で洗えるよ、という言葉を呑み込んで姫宮は大河の好きにさせようとせめて捲れない服の袖を濡らさないよう努めた。
濡らした手に今度は泡石けんを姫宮の手に乗せ、片手ずつ大河の両手を使って洗っていく。
手が全体に泡だらけになった時、水でその際も片手ずつ十分に洗い、そして丁寧に拭いた。
「ありがとう。綺麗になったよ」
お礼を言うが、大河は首を横に振った。
何か物足りなかったのだろうか。
「どうして?」と訊ねると、水を入れたコップを差し出す。
今度はうがいをさせようとしているらしい。
「それはさすがに自分でやるから」
口に入れようとする大河から逃れようと顔を逸らす。が、目一杯背伸びする大河がそのうち台から落ち、水を零したりと大惨事になりそうで、「そのまま落ちちゃうから。危ないよ」や「怪我しちゃうから」とどうにかこうにか大河を窘めようする姫宮のことを扉の隙間からこっそりと覗く安野と小口がいることに気づきはしなかった。
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