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29.
「大河、ハニワのケーキが何味だったか覚えている?」
首を傾げ、天を仰いで考える。
『ちょこ?』
「そう。あれと同じ味がこれ」
チョコレートケーキを指差す。
「ハニワじゃなくてごめんね。だけど、こないだと同じ味が食べれるよ。⋯⋯あ、でも、他のでもいいけど⋯⋯」
大河は首を横に振り、強調するように再度指差した。
「これでいいの?」
二度頷いた。
「分かった。じゃあこれは大河の分で取っておくね」
『たべたい』
「え、あ、食べたいの?」
『たべたい』
再びボードで押して主張した。
「え、でも、大河達は遊んでいたんだよね。いいの?」
こくんと頭を振った。
「ぼくもけーきたべたいです!」
元気に手を挙げた伶介が元気いっぱいに言う。
「そうだよねぇ! じゃあ食べましょうか」
いいのかなと思っていた姫宮の傍ら玲美が声を上げ、伶介が何にするのかを選んでもらい、「二人とも手を洗ってきてね」と呼びかけた。
ちなみに伶介はチーズケーキだ。
「たーちゃん、おてあらいにいこ!」と手を繋いで仲良く行く小さな後ろ姿を見つつも、戸惑いを覚えた姫宮は「良かったのでしょうか」と言った。
「何か気がかりなことが?」
「その⋯⋯二人が遊んでいたのに、ケーキを食べることになってしまったので。とはいえ、そうなったのは私のせいではあるんですけど⋯⋯」
申し訳ない気持ちでいっぱいになった姫宮のことを「いいんですよ、それで」と優しい笑顔を向けた。
「子ども達が先に好きなものを選んでくれて、これで姫宮さんも選びやすくなったでしょう。姫宮さんと食べるのも好きですけど、子ども達と食べるのはもっと賑やかになってさらに美味しく感じられるでしょう? だから結果的に良かったと私は思いますよ」
不安が一瞬にして吹っ切れるような言葉を言い、それでいいんだと思わせた。
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