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30.
「確かにそうですね」
「でしょう。ふふ、じゃあ改めまして姫宮さん、ケーキ何にしましょうか」
再度テーブルに置いた箱に入っているケーキを見る。
大河はチョコレートケーキを、伶介はチーズケーキを選んだ。
それ以外のもの。
今度こそは決めないと。
「そうですね⋯⋯」
視線をさ迷わせる。
その時、ひょいと小さな指があるケーキを指差した。
見覚えのある指。されど急なことに驚きを隠せなかった。
「大河、いたの」
「大河君はガトーショコラがいいって思ったのね」
玲美に対してうんと強く頷いた。
「ガトーショコラ⋯⋯」
「これもチョコレートの一種ですから、大河君とお揃いですね」
安野が用意してくれていた皿に、玲美が乗せてくれ、礼もそこそこに受け取ったガトーショコラを眺めていた。
こげ茶の表面には雪が降り積もったかのようにまぶしてあり、半分に切ったイチゴがちょこんと乗っている。
「さて、じゃあ私はフルーツタルトにしましょうか」
「じゃ、わたしはロールケーキで」
玲美が自分で選んだものを皿に乗せている時、いつの間にかやってきた小口がさも当たり前に選んで、さっさと乗せていた。
「コラ、小口! そのケーキは松下の奥様が姫宮様達のために買ってきてくださったものですよ! それを勝手に取るだなんて!」
「"達"ってことは、わたしも含まれているってことでしょ? じゃあ食べてもいいわけです」
「なんなの、その屁理屈は!」
「それにだって、いくらなんでもこんなにも食べれないと思いますよ。そうでしょ? 姫宮さま」
「え、ええ⋯⋯まあ⋯⋯」
「ケーキは今日中じゃなくても食べれますし、姫宮様のさっきのことを見たでしょ! 大河さまに先に選ばせてあげたりして、小口がそう言い方をしたら遠慮するに決まっているでしょ!」
また始まってしまった。
どうしようと思っていても、二人の間に入る隙もないし、どっちにしたって姫宮が仲裁には入れない。
大河なんてとっくのとうに呆れているようで、冷たい目線を送っていた。
そんな二人に玲美が言った。
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