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「あ、ぇ⋯⋯ママ、大河の顔を見て食べたい、かな⋯⋯」
「⋯⋯」
仕方なしに膝に乗せた大河が後ろを振り返る。
何か言いたげかと思いきや、きゅっと口を引き結んだままただ見てくるのみ。
姫宮が見て食べたいと言ったから、大河が見てきたのだろう。
「そうしたら、大河は自分でケーキを食べられないよ」
「ま⋯⋯」
大河が姫宮のことを指差した。
「ママが大河のことを食べさせてって、こと⋯⋯?」
うんっと頷いた。
「でも、それだとママが食べれないかな⋯⋯」
「⋯⋯」
途端、大河が俯いた。
何やら考えている様子だった。のも束の間、膝から下りた大河がさっき座っていた椅子に座った。
これはもしかしたら、言うことを聞いてくれた?
「⋯⋯」
姫宮が来たことで始まったやり取りを見ていた周りの人達の、恐らく同じようなことを思っているのか、誰もが静かに見守っていた最中を、小口の「ま、食べましょうよ」という言葉で沈黙が破られた。
それぞれがいただきますを口にし、食べ始めた。
「ん〜! ショートケーキ美味しいですね! ここのケーキが食べられるなんて幸せです! 本当にありがとうございます!」
「そこまで喜んで頂けて、買った甲斐があります」
「このモンブランもなめらかですし、栗がふんだんに使われているのもとても良いですね」
「ロールケーキもよく食べるものとは違いますね。クリームも何か舌触りが違うような⋯⋯」
安野達が盛り上がっている中、姫宮も一口に切り取って口に入れる。
表面の少し固めと間のチョコレートのなめらかさ、そしてビターな味がするものの、さして苦くないもので、とても美味しいものだった。
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