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39.
「姫宮様」
肩に手を置かれ、俯いていた顔がハッとして上げると、優しい笑みを見せる安野がいた。
「相手が相手なので不安でいっぱいになりますよね。私も本当に心配でたまりません。そばにいることができない心苦しさもどかしさはありますが、どんなことがあっても私は姫宮様の味方であることは変わりませんからね。安心してここに帰ってきてくださいね」
そう言って、抱き寄せた。
言葉とは裏腹に離したくないと抱き潰されるかと思ったが、優しく抱きしめてくれた。
心安らぐような洗剤と温もりに少なからずとも安心させられるもので、その心地良さに身体を預けたいと思うほどだった。
「⋯⋯ありがとうございます」
目を閉じた。
『はなれて』
突如間近で機械音が聞こえ、驚いた拍子に離れた。
「⋯⋯大河⋯っ」
洗面所から帰ってきていた我が子の口の周りはすっかり綺麗になっていたが、その顔は不機嫌さを表していた。
もう一度『はなれて』と押した。
「あらぁ〜、もう大河さまったら、目を離した隙に行ってしまうんですから。ママさまは大事な話があるから行っちゃダメって言ったじゃないですか〜」
「大河、そんなこと言っちゃダメだよ」と窘めていた時、ゆっくりとした足取りで小口がやってきた。
あの後小口も行ってくれたのかと思ったが、伶介のきょとんとした顔や「⋯⋯わざとらしい」とボソッ言う江藤の様子からして、戻ってきた大河に姫宮達の方へ行くことを促したのだと推測した。
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