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押した階を告げる無機質な音が狭い箱の中に響く。 「先に降りてください」 「あ、はい」 開くボタンを押しながら言う梅上に「⋯⋯ありがとうございます」と遅れて小さく礼を言いながら降りた。 降りた先は白い壁に何かの部屋らしい黒い扉が等間隔にあるだけで、開けなければ何の部屋なのか分からなく、窓も見当たらないことから圧迫感のようなものを覚えた。 「姫宮様、こちらです」 「⋯⋯はい」 振り向きざまに言う彼に無理やり出したような声で返事をし、その後ろに付いた。 それも間もなく、梅上はとある部屋の扉の前へ立ち止まると機械的に叩いた。 「会長、姫宮様がお見えになりました」 「入りなさい」 ああ、ここが。 一気に緊張が高まる姫宮を傍らに「失礼します」と開けた梅上が一礼した後、「中に入ってください」と道を開けたことで、「はい」と上擦った声で入って行った。 入った瞬間、空気が変わった。 社長室を彷彿させるような広い室内に奥には解放的な窓があり、その外には街並みが広がっていた。 その前にどっしりとした机にエグゼクティブチェアに座る初老の女性がいた。 前髪を真ん中に分け、額を全体的に見せ、長い髪を後ろに団子状に纏めた髪型は清潔感があり、利発そうな印象を持たせたが、姫宮を見る鋭い眼光は初めて会った時の御月堂を思わせる威厳があった。 入った時から感じていた空気がその者に見られていることでさらに変わる。 重たくのしかかる威圧は心臓を押し潰されそうなほどに、息を吸うのもやっとでもあり、躊躇うものだった。 身を竦ませる。 「急に来るように言った上にご苦労でしたね」 「あ、いえ⋯⋯」 「申し訳ないのだけど、こちらまで来てくださいますか」 「⋯⋯はい」

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