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「そうですか。大した理由もなくお世話になっていることがよく分かりました。でしたら姫宮さん。今すぐ出て行きなさい」 「⋯⋯あ⋯⋯」 突き放された。 早く言わないと。 だが、この理由も大した理由ではないと言われると思ったら、言おうとした言葉を口の中に留めることになった。 自分なんかに納得させるようなことなんてできるのか。 と、ただ見ていた梢がすっと目線を落とした。 「とはいえども、そのまま無責任に雲隠れをしかねるわね⋯⋯」 考える素振りを見せた後、こう言った。 「オメガ専用の抑制剤の効果について研究しているのですが、生憎オメガの方がなかなかいなくて。あなたオメガでしょう。ちょうどいいです、その治験の被験者になってもらいます」 「被⋯験者⋯⋯?」 「こちらとしては薬の効果が具体的に分かり、あなたも多少なりとも支払いの足しになるかと思います。悪くない話だと思いますけど」 最近ようやく人並みの生活が送れてきていて、日々の暮らしに精一杯な姫宮には外で働くなんて到底無理な話であるため、その出してくれた案は良いといえるものといえよう。 「早速ですが来週から来てもらいます。詳細は追って梅上から連絡しますので。以上話は終わりです」 途端、姫宮から興味が削がれたように机の上に置かれていた書類に目を通す梢に急な態度の変わりように戸惑っている姫宮に、「姫宮様、こちらへどうぞ」と後ろから聞こえる梅上が開く扉へ向かって歩き出したのだった。

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