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56.
まばらに返事をする周囲に紛れて返事した姫宮は、倉木と同じ格好した研究員から問診票をもらい、順番に書いていった。
しかし、名前を書いてすぐの次の項目に手を止めることとなった。
年齢と生年月日。
そういえば自分のだと証明できるものを探し忘れていた。
けれども、当たり前に分かることも分からないなんて。
自分のことを責めつつも姫宮は考えた。
大河は五歳だから、五年前の年は⋯⋯。
いや、西暦が分かったとしてもやはり自分の年齢が分かるわけがない。
焦りが募る。
「何か分からないことがございますか?」
先ほど問診票を渡してくれた研究員が話しかけてきた。
第一印象からそうだと感じていたが、実際話しかけてきた時から感じの良さそうな人で、そんな人柄に思わず正直に言いそうになったのを慌てて閉じた。
「あ、いえ、別に⋯⋯」
「身長体重は着替えた後、研究長と簡単な面談の後に健康診断をしますから、分からなければ空欄のままで大丈夫ですよ」
「はい」
にこと愛想良く笑い、去っていく研究員に小さく吐く。
一旦は誤魔化すことはできても、後でまた言われそうだ。
どうしたものか。
「──あなたで最後のようですが、問診票は書けましたでしょうか」
「あ⋯⋯え⋯⋯?」
顔を上げると姫宮以外着替えて、並んで待っていた。
「あ、すみません、書けました」
慌てて、声を掛けてきた人から検診衣をもらい、案内された個室型の更衣室に入った。
洋服屋の試着室よりも広い中は、入って左側に鍵付きロッカー、その反対側には腰掛け、そして目の前には全身鏡が備え付けられており、貧相な姿が映し出されていた。
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