56 / 184

56.

まばらに返事をする周囲に紛れて返事した姫宮は、倉木と同じ格好した研究員から問診票をもらい、順番に書いていった。 しかし、名前を書いてすぐの次の項目に手を止めることとなった。 年齢と生年月日。 そういえば自分のだと証明できるものを探し忘れていた。 けれども、当たり前に分かることも分からないなんて。 自分のことを責めつつも姫宮は考えた。 大河は五歳だから、五年前の年は⋯⋯。 いや、西暦が分かったとしてもやはり自分の年齢が分かるわけがない。 焦りが募る。 「何か分からないことがございますか?」 先ほど問診票を渡してくれた研究員が話しかけてきた。 第一印象からそうだと感じていたが、実際話しかけてきた時から感じの良さそうな人で、そんな人柄に思わず正直に言いそうになったのを慌てて閉じた。 「あ、いえ、別に⋯⋯」 「身長体重は着替えた後、研究長と簡単な面談の後に健康診断をしますから、分からなければ空欄のままで大丈夫ですよ」 「はい」 にこと愛想良く笑い、去っていく研究員に小さく吐く。 一旦は誤魔化すことはできても、後でまた言われそうだ。 どうしたものか。 「──あなたで最後のようですが、問診票は書けましたでしょうか」 「あ⋯⋯え⋯⋯?」 顔を上げると姫宮以外着替えて、並んで待っていた。 「あ、すみません、書けました」 慌てて、声を掛けてきた人から検診衣をもらい、案内された個室型の更衣室に入った。 洋服屋の試着室よりも広い中は、入って左側に鍵付きロッカー、その反対側には腰掛け、そして目の前には全身鏡が備え付けられており、貧相な姿が映し出されていた。

ともだちにシェアしよう!