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スーツを買った際に身だしなみをきちんと見た方がいいと、全身鏡を買うことを勧められたが、洗面所の方が見やすいし、自分が見るより安野に見てもらった方がいいとやんわりと断った。 そのことを言うや否や、安野は大喜びでその役を引き受けてくれた。 が、ちょっとばかし安野のそういうところを利用したようで良心が痛んだりもしたが。 何はともあれ、さっさと着替えないと。 腰掛けにコートと鞄を置いた姫宮は上着を順に、脱いでいった服をなるべく皺を付かないようにし、丁寧に折り畳んではロッカーにあるハンガーに掛け、ワイシャツもズボンも棚となっている箇所に丁寧に置いた。 着替えるとは思わなく、普段通りに身に付けてしまったベビードールも脱いで、ズボンとワイシャツと共に置いた。 それから渡された検診衣の着方に手間取っていながらも、何とか着替えることができたのだが。 袖は肘程度、裾は膝下までの長さはあったものの、どちらにせよ足首を隠すには不十分だった。 こんな傷だらけの身体、なんて言われるか。 「どうしよう⋯⋯」 困ったような顔をした自分が映った。 しかし、どうもこうも言ってられない。 ただでさえ待たせているのだから、行くしかない。 鞄を入れた後、ロッカーに鍵をし、更衣室にも鍵をし、リストキーとなっているそれを腕に通した姫宮は問診票を持って、頼りなさげな足取りで最後尾に並んだ。 「次、どうぞ」 中から研究長の声が聞こえた。 「失礼します」と恐る恐るといった手つきで取っ手を掴んで、横にスライドさせた。 中は大河がお世話になっている心療内科と同じようで、やや広い空間に左手に机、その隣の奥に研究員である倉木が座っており、その前には丸椅子が置かれていた。

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