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58.
「こちらに座ってください」
目の前の空席を手で差し示す。
「はい」と緊張した声で座った。
「問診票を見せてくださいますか」
「はい⋯⋯」
語尾が小さくなる。渡す手が小さく震える。
目で記入欄を追う研究長の視線が怖い。
「名前は姫宮愛賀さん⋯⋯。年齢と生年月日が未記入のようですが」
「あ、いや、その⋯⋯」
早速指摘された。
すぐに言われるのは予想していたはずだが、分かるぐらいにしどろもどろしてしまった。
「治験は原則十八歳からとなっております。今回もその年齢が対象ですが、条件に当てはまるのですか?」
「あ、はい⋯⋯」
「ここに記入しない不都合なことが?」
「そんなことは、ないんですけど⋯⋯」
語尾が小さくなっていく。
これではますます疑われてしまう。
今もそのような目を向けられ、思わず目線を逸らしてしまう程だった。
せめて十八歳以上の年齢を書いておけば良かったか。
だが、それでは嘘を言っているようで、良心の呵責に苛まれる。
「妊娠の有無の欄ですが、今妊娠中ですか?」
「あ、いえ」
「では、お子さんがいらっしゃるんですか?」
「はい。息子が一人で、こないだ五歳になりました」
「そうですか」
少し考える様子を見せた。
何か言ってはいけないことを言っただろうか。
生年月日の話は途中なはずだが、あれでいいのだろうか。
モヤモヤしている姫宮に倉木はこう続けた。
「アレルギーはなし。持病はなし。大きな病気もなし。普段服用されている抑制剤は⋯⋯──っ!」
片眉が上がった。
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