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「⋯⋯我が社が開発した薬を服用なさっているんですか?」 「え? ええ、はい⋯⋯」 「二年前から服用されているようですが、前は違うところのを服用していたということですよね。変えた理由は?」 「行っているお医者さんに勧められてですね。前よりも安いので」 「前のと比較してどうですか?」 「今の方が副作用も少なく、効いている感じがあると思います」 「なるほどなるほど」 机の上にあった紙にペンを走らせていく。 自身で開発したものだから、実際に服用している人の声が聞きたいのかもしれない。 前に御月堂が所詮自分はアルファであるから結局自分には分からないもので、紙面で完結していたが、自ら赴いてオメガの研究員に直接話を聞いたという話をしていた。 そのきっかけをもたらしたのが姫宮だったということだった。 矢継ぎ早に詰め寄る訊き方に後退りしそうになったが、少しでも役に立てたのなら良かったといえよう。 「これは問診票に書いてあることではないのですが、その腕や足の傷痕はどうされました?」 心臓が跳ねた。 やはり、目立ってしまうものか。 ここに入る際に感じた視線もこれらが原因だったのだろう。 正直に言うべきなのか。 「誰かにもしくは自分でそのようなことを?」 「え⋯⋯っと、その⋯⋯仕事で⋯⋯」 「仕事で。そうですか」 思ったよりも淡白な返事で拍子抜けしてしまった。 これ以上訊いてこないということは、特に興味がないということなのか。それとも訊くべきではないと判断したからなのか。 ひとまず抑制剤の時のように質問責めに合わずに済みそうで、分からない程度に小さく息を吐いた。

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