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「簡単な問診はこれで終わりです。次は健康診断に行ってください」
「あ、はい⋯⋯」
問診票を返され、研究員に案内されていた姫宮は半ば拍子抜けだった。
「ここで待っててくださいね」
「はい」
軽く会釈した後、前方を見やる。
最初は身長と体重なようだった。
身長の台に乗ると一緒に体重を測れるものとなっているらしい。
あまりじろじろ見るのも良くないだろうと暇潰しも兼ねて、ファイルに入れてある問診票に目線を落とした。
そこで初めて気づいたが、冊子状になっていたらしく一枚捲ると、健康診断の項目となっていた。
ざっと今日やる項目を見ていた時、そういえば生年月日の話が途中になっていたことを思い出す。
仮に姫宮が十八歳未満であれば、治験に参加できないはず。
表面に戻り、生年月日欄を見るとえっと声が出そうになった。
そこには明らかに自分ではない字で書かれていたのだ。
この生年月日は⋯⋯。
「次、どうぞ」
「え⋯⋯あ、はい⋯⋯」
看護師らしき人に促され、身長体重から始まった。
何故、勝手に書かれていたのか。
口ではもっともらしいことを言って仕向けていたのか。
それとも会長と何らかの関係が⋯⋯?
会長直々に姫宮が負うべき責任のために治験をやるように言ってきた。
だから、ゆうに治験に参加できる年齢を記載したということなのか。
そうしないと姫宮は責任逃れをするだろうからと。
しかし、未成年だった場合、安野が言っていた信用問題にならないだろうか。
「痛いかもしれませんが、動かないでください」
「⋯⋯っ」
半ば考えているうちに採血をする項目になっていた。
手首に一瞬の痛みとビリビリと痺れのようなものを感じ、注射器に徐々に入っていく自分の血をぼうっと見ていた。
「採血は終わりです」
「あ、はい」
一拍遅れながらも椅子から立ち上がると、「出口はこちらです」と看護師に案内され、外へと出た。
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