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「これで健康診断は終わりです。着替えて、研究長の元へ集まってください」
「はい」
「お疲れ様でした」と言う看護師にその言葉を返すと、更衣室へと足を向ける。
その途中先に終わり、私服に着替えていた人達がちらほらと集まっていた。
早くしないとまた待たせてしまう。
駆け足気味に更衣室に向かい、着替えた姫宮は荷物を抱えて、研究長の元に集まっている人達へ駆け出した。
「皆さん集まりましたか」と姫宮のことをチラ見した倉木が口を開いた。
「皆さん、お疲れ様でした。今日やるべきことは終わりました。今日行なった健康診断の結果は来週出しますので、別途連絡します。では、研究員から封筒をもらった人から解散してください」
「お疲れ様でした」と再度言う倉木にちらほらと返す被験者らが散り散りに去っていく中、姫宮は肩透かしした。
今日は健康診断だけだったのか。
確かに安野から今日は健康診断だから、朝食はございませんと申し訳なさそうに言っていたが、まさかそれだけだとは思わなかった。
今朝、まるで今生の別れのような別れ方をしたというのに。
人知れずくすりと笑ってしまった。
こんなに早く帰ったら拍子抜けするだろう。
でも、安野達の作る料理が食べれるのが楽しみ。
「本日の謝礼です。どうぞ」
「ありがとうございます」
両手で受け取った封筒に伝わる感触が気になった。
少し厚みがあるような。
小首を傾げつつ、研究室を後にした姫宮はちょうど開いたエレベーターに乗り、出入口のボタンがある側に姫宮と変わらなさそうな年齢の男性しかいなかったことから、こっそりと中身を検めた。
中から出てきたのは一万円札が五枚。
つまり五万円が入っていたのだ。
たった二時間の、しかも健康診断をしただけだったのにこんなにももらえるなんて。
恐ろしくもあったが、借金返済の足しをしなければと鞄に入れた。
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