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62.
「君も治験の参加者?」
肩を跳ねさせた姫宮は顔を上げると、携帯端末から顔を上げる男性と目が合った。
「え⋯⋯はい⋯⋯」
「治験バイトは初めて?」
「はい」
「そうなんだぁ〜、俺もそう。このバイト、今までやってきたバイトよりも高くて、ありがたいんだよねぇ。無駄な労働しなくていいし」
「ええ、はい、そうですね⋯⋯」
急に話しかけられて驚きもしたが、敵意も悪意もない。
何より同じ被験者ということは、同じオメガということだ。少なからずそのような感情を向けてこないはず。
だが、片側だけ前髪を伸ばし、片目だけで見てくる目がどことなく不気味に感じるのは何故だろう。
ピコーン、と押した階に着いたことを告げる音が響いた。
「あ、着いた」と扉上に目を向けて言う。
男性が『閉』ボタンを押し、「先にどうぞ」と譲ってくれたことから、「ありがとうございます」と下りた。
そのまま何となく並んで歩いて、受付で許可証を返し、出入口まで行ったが、その間話しかけてくることはなかった。が。
「来週も治験で会おうね〜」
軽く手を振ってきたのを、遠慮がちに振り返し、姫宮とは真反対に去っていく男性を見ていた。
なんだったのだろう。
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