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「ただいま戻りました」 そう言いながら入ったものの玄関先には誰もいなかった。 自分に気を遣わせることがなくて良かったと思う反面、寂しさを感じてしまう。 こんなことを思ってしまうなんて我儘かなと、自嘲にも似た苦笑いをしつつも靴を脱いでいた時、 「ま、ま⋯⋯っ」 顔を上げると、大河の姿があった。 「大河、来ていたんだね。ただいま」 頭を撫でると、身体を左右に揺らした。 どうやら嬉しいようだ。 その様子を微笑みながら眺めていると、ずいっと眼前に見せてきた。 それは大河が描いた絵だった。 『おかえりなさい おしごとおつかれさま』と拙いながらも一生懸命書かれた字。 いつも絵ばかりで字を書いたことなんて見たことがなかった。誰かが教えてくれたのだろうそれに加えてその下にスーツ姿の姫宮が描かれていて、そこまで言われることをしてないが、これは素直に。 「ありがとう、大河。嬉しいよ」 さっきのように頭を撫で、けど今よりも笑顔を見せてその気持ちを示した。 「玄関の方から聞いたことがある声がするなと思えば。思っていたよりも早いお帰りでしたね」 「ま、ママさまレーダーを察知した大河さまが行ったから察しはしましたけど」と大河の部屋から出てきた小口が言った。 「今日は健康診断のみだったようで⋯⋯」 「へぇ、そうだったんですか。安野さんの伝達ミスですかね。まぁ、最近の様子ではありえなくはありませんがね」 「はは⋯⋯」 苦笑を漏らす。 姫宮も正直に思ったが、安野の名誉のために言わないでおいた。 「この絵もらっていい?」と大河に話しかけている時だった。 「ああ! 姫宮さま! お早いお帰りで! こんなにもすぐに会えるとは思いませんでした!」 慌ただしくやってきた安野が、長年の再会だというように涙ぐむ。

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