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66.
健康診断の結果の日。
先週よりも遅くに来るようにということから、今まで通りの時間に起き、大河と共に朝食を摂り、見送ってもらった。
そして今日から本格的に治験をするらしく、先週よりも帰りが遅くなるとのことだった。
どのくらい遅くなるのか未定であるため、案の定安野が心配し、ちょうど今日が休みだったが、来ようとしていたのを他の人達に止められていた。
連日いてくれたものだから、さすがに安野も疲労が出ていたようで調子が良くなさそうであったため、素直に従って休んでいた。
袋田に送迎を頼むと御月堂に気づかれかねないのと、それも金銭面の負担になっているのではと思い、家から徒歩で通っていた。
行けなくもない距離で良かったと思いながら、受付で許可証をもらい、歩く速度を緩めながらそれを首を下げつつ、エレベーターへと向かった。
そこへ差し掛かった時、その前でやや猫背気味の男性が待っている暇潰しに、携帯端末に向かって忙しなく指を動かしていた。
姫宮はそこまでする用がないため、何をしているのだろうとつい見入ってしまっていたが、そのうちはたと思った。
後ろ姿を見たことがあるような。
交流関係は少ないため、すぐに誰かは分かるはずだが、頭に浮かぶ人達の誰にも当てはまらなかった。
テレビか何かで見た人だろうか。
誰だっけと考えながらも、そのもやもやする原因の後ろに並んで待っていようとした時、男性が振り返った。
「あ、おはよぉ〜先週ぶり〜」
まるで友達のように親しげに笑いかけてくる。
が、姫宮の目には薄ら笑いしているように見え、失礼ながらも引きそうになった。
「え、なになに? 先週のこともう忘れちゃったの?」
「あ、いえ⋯⋯」
とはいえども、どなたですか? と今更訊けない。
と、思ったが、片側だけ長い前髪で隠し、半分程度しか開けてない目で見てくるそれにあ、という顔をした。
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