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67.
「あ、思い出した? へへ⋯⋯」
口角を上げ、笑い出す。
思い出してもらえて嬉しいということなのか。
「⋯⋯すみません、人の顔を覚えるのが苦手で⋯⋯」
「まぁ、間が空いたからしょうがないよね」
そこでエレベーターが開いたことにより、共に入ることになった。
研究室がある階を押した青年は、「それよりも」と言った。
「すごく警戒してるよね。俺は同じオメガに出会えて嬉しいのに」
「すみません。どういう反応をしたらいいのか分からなくて⋯⋯」
「そっかぁ〜。まぁそこまで気にしてないし、かしこまらなくていいよぉ、えーと、えと⋯⋯」
何かを思い出そうとしているようで、やがて頭上を見上げた。
「⋯⋯名前なんだっけ?」
首を傾げた。
姫宮の記憶が正しければ、あの時名乗ってないはずだ。
「姫宮です。姫宮愛賀」
「俺は美澄泰。よろしくね、愛賀」
動揺した。
急に下の名前で呼ぶだなんて。
姫宮が一人で出かけたことが心配で、知らぬ間に尾行していた江藤にそう呼んでもらうよう頼んでみたら、そう呼ばれるのにふさわしい方がいるから承れないと断られた。
江藤と美澄と名乗った青年との立場は違うかと思われるが、それでも会って間もない相手からそう呼ばれるだなんて。
「俺のことも泰でいいよ」
「⋯⋯せめて美澄さんでよろしいでしょうか」
「まぁ、なんだっていいよぉ〜」
意外とあっさりと受け入れてくれた。
そこまで気にするほどでもなかったか。
その後他愛のない話をしているうちに研究室がある階に着き、先に下りた美澄が研究室の扉を開いた。
「おはようございます〜」
「おはようございます」
美澄の後に続いて挨拶をすると、中にいた研究員が次々と挨拶を返してくれた。
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