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「それでは以上です」と言う倉木に「ありがとうございました」と告げ、入ってきた入り口から出て行った。
診察室から離れた場所にいた美澄が気づいて、そばに寄ってきた。
「どうだった?」
「体重が平均よりも低いってだけで、他は特に⋯⋯」
「そうなんだ〜。俺なんてどの数値もやや高いから今回の治験を機に食事を改めろって言われた」
「そうなんですか⋯⋯」
姫宮よりも痩せている見た目からして想像に難くはなく、先ほどの食事を聞いてそれが顕著だった。
「さっき聞きそびれたことなんだけど、数値がいいってことはいいものを食べているってこと? 」
「私は⋯⋯」
安野達が毎日美味しい料理を作ってくれるおかげだ。なんてことない料理かもしれないが、姫宮にとってはいいものだった。
「特別美味しいものです」
「へぇ〜、愛賀はそう言えるほど料理上手なんだ?」
「あ、いえ、私ではないんですけど⋯⋯」
はっとした。
つい口を滑らせてしまった。
そこは嘘でもいいから自分で作っていると言って、話を終わらせるべきだった。
違います、私が作っていますと慌てて訂正しようとした時だった。
「へー、どっちにしたって健康にいい料理を食べれていいなぁ〜」
俺も作ってもらいたいわ、と羨ましいとため息混じりに言う美澄に曖昧な返事をした。
特にそこまで興味がなさげで、しかしそんな彼で救われたとも思った。
「治験でいいものを食べて、数値が良くなったとしても帰った後も続けないと意味がないよね〜」
「そう、ですよね」
「俺も誰かに作ってもらって、健康にいい料理を食べたいわ」
腕を伸ばしながらそんなことを言う。
是非とも安野達が作る料理を食べて欲しい、とは思うが、安野達の関係もなかなか言えないものだから、心の中に留めておいた。
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